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柊さんと深い仲になって2か月も経たない内に、また伊織から『ココア』の一言。
土曜日の今日は夕方からの短時間勤務を希望していたので丁度良かった。
「伊織ー?」
昼ごろに伊織の家に入ると、家主の姿が見えない。代わりに、浴室からシャワーの音が聞こえる。
今日は午前中だけ出勤だったと聞いた。疲れているだろうし、さっさと作って俺も仕事に行く支度をしなければならない。
無意識にスマホをソファの肘掛けに置いて、俺はココアの準備にとりかかった。
持ってきた牛乳を温めている時に、浴室から伊織が頭を拭きながら出てきた。
「もうちょいで出来るからな」
振り返って伊織に言うと、キッチンにいる俺を見もしないで、ソファを見下ろしている。
そこには俺のスマホがあったはずだ。嫌な予感が背中を走った。
「いお」
「ひいらぎって、だれ?」
冷たく低い声がリビングに響く。
柊さんからのLINE通知画面が見えたらしかった。
「今日は外で食べようかって、何だよ。なあ」
「勝手にスマホ見るなよ」
キッチンから離れて、スマホを取り上げる。濡れた髪の間から、鋭い目がじっと俺を見ていた。一瞬、身が竦む。
「お前は俺が好きだったんじゃないのかよ!?」
激しい怒りを剥き出しにして怒鳴る伊織。
お前は俺が好きだったんじゃないのか?
その言葉を心の中で反芻した時、今まで感じた事の無い激しい感情がこみ上げてきた。
やっぱり知ってたんだ。知ってくせになんで何も言ってくれなかったんだ。俺の事を避けるようになったくせに。どうしてそこらの女じゃなくて、俺を選んでくれなかったんだ。俺はいつだってお前の事を想ってきたのに。
「何でっ、今それを言うんだよ!」
泣きそうになるのを堪えて感情のまま言葉を口にすると、ほとんど叫び声になっていた。
「そうだよ、俺はずっとお前の事が好きだったよ、馬鹿野郎!」
感情に任せて伊織の家を飛び出す。伊織は、追いかけて来てはくれなかった。
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