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第1章 第2話(1)

 仕事終わりに食事に行かないかと誘われた。  現在、多様性幹細胞をメインに研究を行っている坂巻(さかまき)班と呼ばれるチームのメンバーからの誘いだった。  主任の坂巻を筆頭に、飲み会に参加するのは八名ほど。  会社を出て五分ほどの場所にある、路地裏を少し入った駅近の居酒屋だった。おそらく彼らの行きつけなのだろう。 「群ちゃん、結構イケるクチ?」  刺身の盛り合わせや店のオススメ料理などを適当に注文したあと、運ばれてきたビールで乾杯をした。  隣に座った坂巻が、気安い口調で声をかけてくる。三十代半ばの、一見したところ営業畑か、技術系といった雰囲気の男だった。ノリもどこか体育会系で、体型も筋肉質。繊細で神経質な学者とはほど遠いイメージだが、きちんとグループをまとめ上げたうえで成果も出す、有能な人物だった。群司がバイオ医薬研究部に入ってからは、臨床試験のデータ集計を頼まれることが多い。 「どうですかね。そんな弱くはないと思いますけど、メチャクチャ飲むってほどでもないんで」 「若いうちから酒量弁えてるなんてエライねえ。っていうか、できすぎじゃない? 学生のうちはいろいろバカやっとかないと」 「いやあ、充分やらかしてます。ただ、酒が好きっていうよりは、場の雰囲気が好きなんですよね。あとは一応、俺も将来がかかってるんで、皆さんのまえでは猫をかぶっておこうかなと」 「おーおー、言うねえ。涼しい顔しちゃって、まあ」  ジョッキを片手に坂巻は上機嫌で笑った。 「だけど、いまの言いかたからすると、進学よりうちに来たいっていう希望が出てきたってことかな」  はす向かいに座る豊田が身を乗り出してきた。その質問に、他のメンバーも興味深げに関心を寄せてくる。群司は「ええ、まあ」と笑った。

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