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第1章 第2話(2)

「まだ確定ではないですけど、皆さんの仕事を手伝わせてもらうようになって、やりがいとおもしろさを実感するようになってきたっていうか」  もともと興味があった分野なので、と言う群司に、坂巻班のメンバーは嬉しそうな様子を見せた。 「院に進んで研究の道を、とも思ったんですけど、こうやって働きながら研究に携わるのもありかなぁとか思うようになりまして」 「まあ、そうだよね。仕事である以上、完全に自分の好きな研究ってわけにはいかないけどさ。でもそれで、きちんと給料ももらえるわけだし」  嫌じゃないならほんとにうちに来れば、と豊田が誘いの言葉をかけてきた。三十代前半で、細身の眼鏡男子。こちらは上司とは真逆に、いかにも学者といった雰囲気を持ち合わせた人物だった。 「門脇部長からも結構本気で口説かれてたもんね~。あの人のお墨付きだったら採用確実だと思うよ?」 「就職難のこの時代に、ありがたいです」 「でもさあ、就活はさておき、学校のほうは大丈夫なわけ? うちのバイト、結構フルで入ってるっしょ?」  ゼミや卒論の準備は大丈夫なのかと坂巻に訊かれて、群司は苦笑いをした。 「あ~、そっちはまあ、ぼちぼち」 「新年度はじまったら、さすがにいまみたいにガッツリってわけにはいかないだろ」 「ですかねえ。一応、三年までのあいだに必要な単位はほぼ取得済みなんで、ある程度の融通は利かせられると思うんですけど。ただ、卒論はたしかにこれからなんで」  か~、これだよ優等生は!と坂巻は額に手を当てて天を仰ぐ。その様子を見て、豊田がクスクスと笑いながら群司に視線を戻した。 「テーマはもう決めてる?」 「専攻は生物学なんで、遺伝子編集とかにはかなり興味があります」 「ああ、なるほど。そうすると、デザイナーベビーみたいなのとかかな?」 「ですね。あとはもっと端的に、いま生きてる段階で手軽に組み替えができたらいいのになと思ったりするんですよね。受精卵の段階からじゃなくて」 「っつうと、たとえばいまの俺が、このままの状態で金髪碧眼になるとか、あるいは性転換手術を受けずに女になれちゃう、みたいな?」  隣で身をくねらせる坂巻に、チームのメンバーたちは笑った。

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