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第2章 第1話(4)

「え、待って! 待ってっ。冗談じゃなくてほんとにっ!? なんでっ。いつっ!?」 『今朝だそうだ』 「今朝? どこで? っていうか、事件? 事故? 仕事で? まさか病気? いや、でも俺、ついこないだ会ったけど、そんな話は全然……」 『とにかくそういうことだから、母さんに伝言、頼んだぞ』 「いや、ちょっ、待って! 父さっ――親父っ!」  これ以上話したくないのか、父は一方的に通話を終わらせようとする。群司は必死でくいさがった。 「ごめん。俺全然、状況理解できてない。頭パンクしそう。せめて死因くらい聞かせて。父さんから連絡来たってことは、仕事がらみ?」  群司の質問に、低く、沈痛な声がわからんと答えた。 「今朝、路上で倒れているところを発見されたそうだ。通行人の通報で救急車が到着したときには、すでに死後数時間が経過している状態だったそうだ」 「なんでそんな……」  説明されても、どうしても納得がいかない。兄はいま、どんな案件を扱っていたのだろう。暴力団か、あるいは国際犯罪組織といった類いか。  筋のよくない連中を相手にして、生命を奪われるはめになってしまったのではないかと思った。だが。 「仕事がらみかどうかは俺にもわからん。」  父は苦い声で呟いた。 「だが少なくとも、の案件じゃないことはたしかだ。優悟は半年ほどまえに、警察を辞めている」  父が突如落とした爆弾に、群司の思考は追いつかなかった。 「………………は?」  やっとのことで呟いたとき、電話はすでに切れていた。  通話を終わらせる際に、父は自分になにかを言っていたことだけはうっすらとわかる。おそらく体調を気遣う言葉と、母への伝言を念押しするものだっただろう。だが、具体的にどういう言葉だったのかは、まるで思い出せなかった。父から知らされた事実は、それほどまでに衝撃だった。  兄が警察を辞めていた?  そんな話は、一度も聞いたことがなかった。

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