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第2章 第2話(2)

 あとになって考えてみれば、たしかに兄とは半年以上も連絡を取り合っていなかった。否、昨年の暮れに一度、年末年始あたりに顔を見せにくる予定はあるかと問い合わせるメッセージは送った。それによって用意するおせちの量が変わるからと母に言われたためだった。だが、メッセージに既読はついたものの、兄からの返信はないままだった。  仕事柄、勤務態勢は不規則で、盆も正月も関係ない。こちらからの連絡に兄が応えないことはめずらしくなく、そのときも忙しいのだろうと勝手に解釈してそれっきりになっていた。群司は群司で、学生生活にアルバイトにとあわただしい毎日を過ごしていたからだ。  そもそも男同士、それも兄弟で頻繁に連絡を取り合ったりはしない。学生と社会人で、生活のリズムも世帯も違えばなおのことだった。用があればそのうち。そんなことを思っていた。そしてそんなとき、街中で兄とバッタリ出くわしたことがあった。つい、ひと月ほどまえのことである。  塾講師のバイトを終えて家に帰る途中、乗換駅のコンコースを移動中に偶然行き会って、そのままふたりで駅ナカの居酒屋へと足を運んだ。  連絡が途絶えてからもしばらく経つが、実際に顔を合わせるのはかなりひさしぶりで、酒を酌み交わしながら互いの近況報告をし合った。といっても、話をするのはもっぱら群司のほうで、兄は自分のことについてはあまりくわしく語ることはしなかった。というよりも、仕事柄、多くを語ることはできないのだろう。これもいつものことなので、群司はさして気にも留めなかった。  年末の問い合わせに関する既読スルーに文句を言うと、兄はばつが悪そうな表情を浮かべて忙しかったのだと言い訳半分で謝罪した。ちょうど手が放せない状況にあって、あとで返信しようと思っていたのが、そのまますっかり忘れていたのだと。  悪かったと言いながらも、さして悪びれたふうもなく、これもやはりいつもどおりで、仕事は大変なのかという群司の問いかけに、兄はまあ、それなりにとゆったりした口調で応じた。  いま扱っている案件が落ち着くまでは、もうしばらく連絡はつきにくくなると思うが、心配しないよう母親にも伝えておいてほしいと伝言を頼まれた。変わらずやっているからと。  相変わらず大変そうだなと群司が呆れ半分で嫌味っぽく言うと、やりがいはあるぞと楽しげに笑っていた。その口ぶりからも、自分の仕事に誇りを持っている様子が窺えた。  警察を辞めたなどとはひと言も言っていなかった。そんなそぶりすら見られなかった。それなのになぜ……。  あれからまだ、たったひと月しか経っていなかった。

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