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第3章 第1話(3)

「あ、ども。お疲れさまです」  群司もあわてて挨拶をする。立ち上がりかけた群司を、坂巻はいいからいいからと気さくな調子で制した。 「めずらしいね。今日は外行かないんだ。あんま社食(ここ)、使わないでしょ、群ちゃん」 「あ~、そうですね。社員じゃないんで、どうも敷居高くて。けど、さすがに今日の天気だと外に出るのは億劫で」  結局お邪魔させてもらいましたという群司に、坂巻は愉しげに笑った。 「いやいや、そんな遠慮することないでしょ。群ちゃんだって立派にうちのメンバーなんだからさ。充分利用する資格あるわけだし、気兼ねせずにガンガン使いなさい……って、おお、さすが若人。カレー大盛りか」  食べ途中の皿を覗きこんで、坂巻は感心したように目を瞠った。 「いや、並盛り、のはずだったんですけどね」  なぜかこうなっちゃいました、と群司は苦笑する。坂巻は途端に、カ~ッと呻いて額に手をやり、天を仰いだ。 「食堂のおばちゃんまでイチコロかよ! イケメンの威力、ハンパねえなっ」 「いや、たぶん見るからに学生なんで、オマケしてくれたんじゃないですかね」 「謙遜、謙遜。群ちゃんは男の俺から見てもイイオトコよ? おばちゃんの依怙贔屓(えこひいき)に感謝して、しっかり食いなさい。若いんだから」  坂巻はからからと笑う。目の前の人物が、不意に立ち上がった。視線を向けると、やや食べ残した状態の食器の載るトレイを手に、席を離れる。あ、と思ったが、ここで引き留めるわけにもいかない。群司はその姿を目の端で追った。 「あ~、午後は会議か。はじまるまえから疲れたよ。もう帰って寝たい」  群司の様子にも気づかず、坂巻はぼやいた。そして、 「群ちゃんもスタミナつけて、午後も頼むね。ってか、巻きこんで悪かったな。ちゃんと食事摂る時間あってよかった」  俺もたったいま五分でうどん掻っこんだとこだよと、うんざりした様子で嘆いた坂巻は、腕時計を確認して「やべっ」と小さく叫んだ。群司がつい先程まで追われていた資料作りは、坂巻を中心とするグループが予定している会議に使用するためのものだった。 「俺、先行くけど群ちゃんはゆっくりしてってな」  そう言い置いてあわただしく立ち去っていく。あとに残された群司は、その背を見送って小さく息をついた。  あらためて見やったその先で、返却コーナーに食器を戻した細身の人影が、食堂から出て行くところだった。

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