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第3章 第2話(2)

「深窓の姫君って感じで、いままであんまりおもてに出てこなかったんだけどね。ずっと病弱だったらしくてさ」  群司の様子を気にするふうもなく、世間話のようなノリで話はつづいた。 「それがここに来て体調が落ち着いたんだか、病気が回復したんだかで気まぐれに会社に顔を出すようになったってわけ。まあ、次期社長だからね。自分の目で会社の様子を確認したいってのもあるんじゃないかな」  年上いけるなら狙い目だよ、という言葉は適当にスルーして、もう少し情報を引き出せないかと思案を巡らせはじめたとき、 「群ちゃん!」  コピー機のほうから呼ばれ、顧みたその先で坂巻が手を振っていた。  男性社員に軽く挨拶をして、すぐに坂巻の許へ向かう。その手に、ポンと書類の束が渡された。 「悪い。さっきのいまで、また()き使うようで申し訳ないんだけどさ、これ、第一会議室に持ってってくれない? 会議用の資料とレジュメの追加分なんだけど。急遽人数増えたから」 「ああ、なんか社長令嬢が見えたそうですね。いま聞きました」  坂巻は途端に、「そうなんだよ~」と大仰に訴えた。 「関心持ってもらえるのはありがたいんだけどさぁ、いきなりだと心の準備がっ」 「お疲れさまです」 「ほんとだよ~。俺なんて(のみ)の心臓なんだからさ、勘弁してだよね」  言って、坂巻は嘆く真似をする。 「そんな怖い人なんですか?」 「いや、怖くはないよ? 怖くはないけどさ、将来的には順当に行けばこの会社のトップに立つ人なわけじゃん? そうすっと、しがない社畜の俺としては、今後の出世が~とか考えちゃうわけよ。あととりあえず、美人をまえにすると緊張もするしね」 「美人、なんですか? そのご令嬢」 「お、なんだなんだ、群ちゃんもやっぱ男だねえ。そこ食いつくか!」  坂巻は愉しげに笑った。 「なかなかの美人だぞ~。育ちのよさそうな大人の女って感じでさ。楽しみにしてな」  なんだったら逆玉狙っちゃえ、と先程の男性社員とおなじことを言う。群司はハハハと愛想笑いをしつつ、そういえばと気になったことを口にした。

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