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第3章 第2話(3)

「美人って言えば、眼鏡かけてて一見目立たないのに、そのじつものすごい美人って人、知ってます? 滅多に見ないようなレベルの。三十前後くらいだと思うんですけど」  唐突な質問に、坂巻は目を瞠った。 「ん? それ、うちの社員?」 「だと思います。さっき、社食で会ったんで。雰囲気はいかにも研究者っぽかったんですけど。だから創薬本部の人かなぁとか思って」 「なんだよ、群ちゃんも隅に置けねえなぁ。年上狙いか」  眉尻を下げた坂巻は、肘で群司をつつく真似をする。だが、そんなのいたかなぁと首をかしげた。 「ん~。うちの会社の人間っつっても、この社屋だけでものすごい数いるからなぁ。それこそ千人規模で。一見地味だけど、そのじつものすごい美女? それも眼鏡かけた? そんな()いたかなぁ。滅多に見ないレベルともなれば、どっかですれ違ってれば絶対目が行くし、噂にもなると思うんだけどな」 「あ、違います」  群司はすかさず訂正を入れた。 「女の人じゃなくて男です」 「はあ?」  一瞬ポカンとした坂巻は、直後にギョッとした表情を浮かべた。 「あれ? もしかして群ちゃんて、の人?」  そっちがどっちかはわからないが、言わんとしていることは大体わかる。 「違いますよ」  群司は即座に否定した。 「俺はノーマルです。恋愛対象は普通に異性ですから」 「カノジョは?」 「いました」 「おっと過去形」 「いや、それはこの際置いといてください。いまのはそういうんじゃなくて、ちょっと気になることがあって」 「気になること?」 「あ~、いや、それはまあ、あとでいいです。とりあえずこの書類、届けてきますね。第一会議室、二十階でしたよね?」  群司があらためて確認すると、時計に目をやった坂巻はまたしても「やべっ!」とあわてた様子を見せた。 「そうだったそうだった。悠長に立ち話してる場合じゃなかったっ。悪ぃね、群ちゃん。使いっ走り頼まれてくれる? なんだったらそのまま、端っこのほうで見学してってかまわないから。部長には俺から言っとくよ。俺、パワポの最終チェックしてから行くから先行ってて」 「了解です」  受け取った書類を手に、群司は二階下にある創薬本部の第一会議室に向かった。

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