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第4章 第1話(4)
『けど、もう随分長いこと見かけないよな。おベンキョーはもう終わったんかね』
『営業部にいた伊達さんだったら、もう退職されたみたいですよ?』
そばを通りかかった女性社員の言葉に、坂巻たちは「えっ?」という顔をした。
『そんな仕事熱心な奴が、あっさり辞めちゃうとか、ある?』
『あるみたいですねぇ。ある日突然、連絡一本で辞めちゃったとか。総務にいる同期が、ショック~!って騒いでましたもん』
『え、あの人そんな、不義理だったり非常識な印象なかったけどな……』
首をかしげた佐々木の横で、坂巻が『あらら』と呟いた。
『そんじゃ早乙女くん、せっかくの途中入社仲間をなくしちゃったわけだ』
『え~、そこまでの仲間意識はなかったんじゃないですか? 途中入社っていっても、たしか伊達さんは、早乙女さんの半年ぐらいあとに入ったんじゃなかったでしたっけ?』
『いや、でも俺、彼が創薬に出入りしてたころ、わりとふたりでいるとこ見かけた気がすんですけど』
佐々木に視線で同意を求められて、坂巻は「知らん知らん」と身振りで答えた。
『俺、早乙女くんはこないだの会議ではじめて実物と対面したから。それまで接点ゼロ』
『え~、そうなんですか? 早乙女さん、伊達さんとはまた違った意味で話題騒然だったじゃないですか』
『いや、そうだけどさ。一緒に仕事する機会なかったら、そうそう会わないじゃん。ってか佐々木、おまえは逆に、なんで早乙女くん知ってたの?』
『や、それはですね、話題の営業部の超イケメンについて給湯室で木梨さんたちが盛り上がってたんで、なになに~、なんの話~?って会話に加わったら、最近、営業の伊達さん、薬理研究の早乙女さんとばっか一緒にいるよね~って話してて、え~、どれどれ~? どの人~?っつって教えてもらったっつうか』
『佐々木、おまえ軽い!』
すかさずツッコむ坂巻にクスクスと笑いながら、女性社員は「でも」と口を挟んだ。
『それはやっぱり仕事でじゃないですか? わたし、早乙女さんが仕事以外でだれかと一緒にいるとこ、見たことないですもん』
『あ~、まあ、そっかな。たしかにそうかもね。彼、職場の人間とはいっさいつるまないって噂だったし、実際やりとりするようになっても、そんな感じだし』
『伊達さん、どうして急に辞めちゃったんですかね。それだったら創薬に通ってたとき、早乙女さんじゃなくてわたしにいろいろ訊いてくれたらよかったのに』
『いや、なにその下心まる出し発言!』
盛り上がる坂巻たちを余所に、群司は掌に嫌な汗をかいていた。
一年半まえに伊達という人物が途中入社した時期と、兄と連絡がつきにくくなった時期が重なる。断定するのはまだ早い。それでも、またひとつ、手がかりを掴んだと思った。
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