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第5章 第1話(5)
「遺伝性自己炎症疾患っていう病気でね、免疫系の遺伝子異常によって引き起こされる難病だったの。発熱なんてあたりまえのことで、皮膚や血管にも炎症が起こって、さまざまな原因が作用して臓器障害が起こったり、合併症を引き起こしたり。子供のころからずっと入退院を繰り返して、家にいても主治医がずっと詰めてる状態だった」
「……そんなに大変だったんですか? 病弱っていうレベルじゃないですよね?」
「そうね。本当のことをいうと、成人できたことも奇跡だったし、いま、こうしていることはもっと奇跡」
「いまはもう、完治されたんですか?」
「まだ定期的に検査して経過を診てるけど、そう言ってもいいと思うの。それもこれも、全部新薬のおかげ」
「ひょっとして、天城製薬で創られたものですか?」
「そう。私の体内で誤作動を起こしていた遺伝子を、特定して書き換えることに成功した。簡単に言ってしまえばそういうこと」
ネイルが施された白い指先で、ナイフとフォーク、スプーンを優雅に操りながら、天城瑠唯は食事を堪能し、会話も楽しんでいた。
「だからね、わたしのように苦しんでいる人たちを救ってあげたい。病の苦しみや死の恐怖から解放されて、生きることそのものを楽しめるようにしてあげたい。自分の経験してきたことを通じて、切実にそう願ってる」
やわらかな声音は、静かな空間の中で耳に心地いい音律となって響いた。
「ささやかな日常に幸せを見いだして、未来に希望を抱きながら自分のやりたいことや夢を思い描いて。だれもがあたりまえのようにできることが、重い疾患を抱えた人間には不可能な夢物語でしかない。そのときそのときを生きることが精一杯で、ほかのことにまわせる余力なんて少しもないから。わたしはだれよりそのことをよく知っている」
令嬢はそこでパンをちぎる手を止め、群司をまっすぐに見つめた。
「だからね、そんな人たちをひとりでも多く苦しみから解き放って、人生を謳歌できるようにしてあげたい。そう思ったの」
「それで俺に声をかけてくれたんですか?」
「会議の最後にした質問を聞いていて、あなたは即戦力になると強く感じた」
コース料理が進んでいく中で、会社のこと、研究のこと、今後抱いている展望や計画についてなど、差し障りのない範囲でさまざまなことが話題にのぼった。
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