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第6章 (4)

 自分に少しも関心を持ってくれない先輩はひどいと泣いて責められたが、申し訳ない気持ちはあったものの、関係を修復したいとは少しも思わなかった。大学の級友たちにもなにも言わなかったが、彼女にも家の事情についてはいっさい話さなかったから、群司の態度はひどく冷たく映ったことだろう。 「お、なんだなんだ。めずらしく恋バナか?」  茶化されて、群司は苦笑した。 「いや、そんないい話じゃないです。もうとっくに別れてますし」 「いや~、群ちゃんみたいなイイオトコなら、ひとりと別れても、次がほっとかないだろ」 「そんなことないですよ。現にいまもフリーですし」  そうかぁ?と坂巻は疑わしげな眼差しを向けた。 「イケメンで高身長で頭も良くて性格もいい好青年。俺が女なら絶対ほっとかないね。将来有望なのは間違いないしな」 「メチャクチャ打算的ですね」  群司は思わず吹き出した。 「いやいや群ちゃん、夢を壊すようでアレだけど、世の女性というのはなかなか計算高くてシビアなものよ? 可愛い笑顔の裏で、目の前にいる男は、将来自分に安定した生活を保障してくれそうかどうか、しっかり値踏みしてるから。いつか泣きを見ないように、群ちゃんもいまから肝に銘じておきなさいね」 「坂巻さん、なんか妙に実感こもってますけど、そういう痛い思いした経験あるんですか?」 「あるある~」  坂巻は得意げに胸を張った。 「俺もこう見えて、なかなか経験豊富なのよ。まあいまは、嫁さんひと筋だけどねぇ。ってか、尻に敷かれてる?」  ごちそうさまですと応じた群司に、坂巻はおそまつさまですと神妙な顔つきで合掌した。 「けど、群ちゃんが気になったその眼鏡美人、やっぱ男ってとこに根深さを感じるよね」 「……根深いですか?」 「そうだよぉ。さっき自分でも言ってたじゃん? 予防線張ってたかもって。そういうのってさ、本人気にしてないつもりでも、結構トラウマになってるものなんだよ。付き合ってた()とうまく行かなくなったことが原因で、女性不信とかになっちゃったんじゃないの?」 「や~、俺、そこまで繊細な(たち)じゃないと思うんですけど」 「なに言ってんの。男はみんな、デリケートでナイーブなのよ? 俺だって何度、枕を涙で濡らしたことか」 「それ、くわしく聞かせてもらうことできます?」 「ダメダメ。古傷を(えぐ)られたら、また泣いちゃうからぁっ!」  くだらないことで盛り上がっていると、すぐ近くのテーブルに座っていた男性社員が「えっ!?」という声をあげた。思わず坂巻とともに振り返ると、気づいた男が、「あ、すみません」とばつが悪そうに頭を下げた。 「なんかいま、ネットニュースチェックしてたら、松木大臣が死亡したって速報が出てたんで」 「えっ!?」  これには群司も坂巻も、おなじように声をあげた。

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