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第6章 (5)
男が手にしていたスマホの画面をこちらに向ける。それを見た群司と坂巻は、すぐさま自分の携帯を取りだして最新のニュースにアクセスした。
「うわ、マジか……」
記事の内容を確認しながら、坂巻が呟く。群司もまた、画面を見たまま茫然とした。
いくつかのサイトや記事を素早くチェックしてみたが、いずれも内容は似たり寄ったりで、死因は心臓発作とのことだった。
事件のあと、逮捕後の勾留期間中も松木は錯乱状態がつづいていて、その症状は時間が経つにつれひどくなる一方だったという。このままでは取調べに支障をきたすため、嘱託医の判断を仰いでいたところ、突如苦しみだし、その場で救急搬送。搬送先の病院に到着した時点ですでに心肺停止が確認され、医師らの迅速な対応も虚しく、そのまま死亡が確定したとのことだった。
事件はおそらく、容疑者死亡のまま書類送検。不起訴処分となるだろうと記事はまとめていた。
「なんとも、やりきれないねぇ」
坂巻は呟いた。情報をもたらしてくれた男性社員が、「ほんとですよね」と渋い顔で同意する。この事件では、多くの死傷者が出ている。被害に遭い、犠牲となった人々のためにも、こんな呆気ない終わりが許されていいはずもなかった。
ちょうどそこへ、何人かの集団が通りかかり、男性社員は彼らに軽く手を挙げると、気安い調子で互いに声を掛け合った。
同僚たちに合流すべく、彼は席を立つ。坂巻と群司に挨拶をすると、そのまま同僚たちとともに休憩コーナーから去っていった。
その様子を見送った群司は、あらためて携帯の画面に視線を落とし、口を開いた。
「松木外相、薬物中毒が疑われてましたよね。坂巻さんはどう思います?」
群司の問いかけに、坂巻は「う~ん、そぉねぇ……」と考えこみながら言った。
「たしかに、逮捕時のあの興奮のしかたは常軌を逸してる印象だったかな。けど、薬物反応は出なかったって話だったよね」
「そうみたいですね。俺もネットニュースで見ましたけど」
群司は、坂巻の反応を見ながら頷いた。
「けど、納得してない?」
坂巻はそんな群司をチラリと見やる。群司もまた、ふたたび「そうですね」と頷いた。
坂巻は「そうだなぁ」と呟いて天を仰ぎ、ガリガリと無造作に頭を掻いた。
「薬物か、脳の器質性障害か。あの短い映像だけで判断するのは難しいかな」
「やっぱりそうですよね」
同意しつつ、群司は「でも」と付け加えた。
「絶対に可能性がないわけでもない。そうとも言えますよね?」
「まあ、言えなくもないねぇ」
答えたあとで、坂巻はふっと笑った。
「なに? 群ちゃんは松木大臣にヤク中であってほしいの?」
「あ~、いや。そういうわけではないですけど」
群司は否定した。
「ただ、ここ最近の傾向を見るかぎり、こういうケースが不自然に増えてるのはどうしてなのかなって」
「こういうケースって?」
「世界中の有名人たちがこぞって突如、理性をなくして凶暴化するケースです。松木さんみたいに」
群司が言いきると、坂巻は黙りこんだ。
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