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第6章 (6)

「偶然と言ってしまえばそれまでですけど、でもなんだか、パターン化してるような気がするんです。そして、そうなるメカニズムはなんだろうって考えると、共通するなにかが見えてくるんじゃないかって思えてきて。たとえば、なんらかの生物を媒介にして脳に影響を及ぼす感染症であったり、あるいは日常的に摂取している食べ物や飲み物の中に含まれるなんらかの要素が作用したり」 「もしくは、ごく一部の人間だけが享受できる薬物……とまではいかなくとも、サプリメントのような『なにか』、とか?」  さりげない様子で補足を加えた坂巻を、群司は見据えた。 「そういう可能性は、坂巻さんから見て、ありうると思いますか?」 「そうだねぇ……」  手の中でコーヒーの缶を弄びながら、坂巻は(たの)しげな様子を見せた。 「まあ、製薬会社の研究部門に身を置く立場としては、そういう方向に妄想を働かせると、なかなか愉快ではあるよね」 「プロの目から見たら、やっぱり妄想の域を出ませんか?」 「現時点で科学的根拠はどこにもないからね。ただ、いろんな可能性を踏まえて、柔軟な発想力で検証していこうとする姿勢は大事だと思うよ? 将来的に、それがどんな発見に繋がっていくかは、だれにもわからないことだからさ」  言ったあとで、坂巻は身を乗り出した。 「ね、この話ってさ、俺以外にもだれかにしたことある?」 「あ~、あります。その、薬理研究の早乙女さんに」  群司の言葉に、坂巻は目を瞠った。 「えっ、早乙女くんって、あの?」 「、早乙女さんです」  群司がしっかり肯定すると、坂巻は「うわっ、チャレンジャー!」と本音を漏らした。 「え? それで彼、なんて?」  さらに興味津々といった様子で身を乗り出してくる。 「え~と、薬物中毒であることを前提に、カチノン系の化合物かテトラヒドロカンナビノールあたりが怪しい気がするって言いました。それについてどう思うか、と」 「うんうん、それで?」 「研究者の道は諦めて、小説家にでもなってはどうか、と」 「あちゃ~」  坂巻は額に手を当てて呻いた。

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