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第6章 (7)
「いや、きつい。それはきついよ。知ってたけどね。うん、知ってた。だけどきつい!」
「推論については、まともに取り合う価値もないと思われたのか、完全スルーされました」
苦笑する群司の肩を、坂巻はポンポンと叩いた。
「そっかそっか。そいつはご愁傷さまだったね」
「恐れ入ります」
「ってかさぁ、早乙女くんも、もうちょい可愛い後輩のために親身になってあげてもいいのにね~」
「たぶん、微塵も可愛いとは思ってくれてないでしょうし、俺なんてただの部外者のアルバイトっていう認識でしょうからね。後輩という概念からは完全にはずされてるんだと思いますよ?」
「いやいや、群ちゃんが天城製薬 に入る入らないは別として、おなじ研究の道を志す人生の先輩でしょう? ほんと冷たいんだよなぁ。容赦がないっていうかさ」
坂巻は不満そうに言う。
「まあ、早乙女さんの場合、塩対応は俺ひとりにかぎられたことでもないんで」
「それはそうだけどさぁ」
口を尖らせた坂巻は、あらためて群司を見た。
「それにしても群ちゃん、よりによってよく彼に意見を求めようと思ったね」
「いや、それはなんか、なりゆきで。それに、優秀な人であることは間違いないですし、ひょっとしたら少しは、なにかしらの見解が聞けることもあるかな、と」
「で、玉砕?」
「見事に」
群司はあっけらかんと笑った。
「よし、群ちゃんに勇者の称号を授けよう」
褒められているのか、向こう見ずを暗に示唆されているのかわからない。とりあえず群司は、無難に光栄ですと受け流した。
「まあそんなわけで、早乙女さんには玉砕しましたけど、坂巻さんはどうですか? やっぱり妄想、戯言の類いで一考の余地もないと思います?」
再度意見を求められて、坂巻はそうだねぇと考えこみながら言った。
「さっき群ちゃんが言ってた『薬物中毒であることを前提に』ってことだと、THCならΔ9 あたりが妥当かなって俺は思うけど。まあ、それについては細かく言い出したらキリがないから、とりあえずΔ9を慢性的に投与したとザックリ仮定して、そのあとに発現する攻撃行動は、退薬後も二十日間くらいは持続するって言われてるからね。だからそういう意味では、松木が勾留期間中もずっと暴れて手がつけられない状態だったっていうのは説明がつくかな」
依存性の強いものを常用してたとすれば、クスリが切れたときの離脱症状の一環として、そういう状態になっていたとも言えるけどと坂巻は補足した。
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