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第6章 (8)
「あとは、合成カンナビノイドが複合的に添加されたものであれば、興奮、幻覚、妄想、その他諸々の精神作用が現れたり、身体症状を引き起こしたりということもありえるだろうし、精神疾患、脳の器質的障害によっても、似たような症状は現れる。逆に、薬物の長期連用の後遺症で、そういった精神疾患や脳障害を引き起こす場合もある。まあようするに、きちんと症状を診て、分析できる立場にいなかった俺には正確な解釈はできないって結論になっちゃうわけなんだけどね」
あてにならなくて悪いねぇ。申し訳なさそうに言う坂巻に、群司はとんでもないとかぶりを振った。
「専門家の方の意見も聞いてみたかったので、助かりました」
「いや、たぶんこれぐらいなら群ちゃんにも予測できてただろうからさ。ほとんど参考にはならなかったと思うけど」
「いえ、充分です。自分で考えてたことの裏付けにもなりましたし。参考になりました」
「そう? ならいいけど」
すでに完全にぬるくなっているだろうコーヒーを啜ったあとで、坂巻はあらためて口を開いた。
「ね、これってさ、もしかして卒論に関係してる?」
何気ない調子で訊かれて、群司はわずかに詰まった。
「……あ~、どうでしょう。いまの段階では、確実にテーマの中に盛りこめるかまではわからないですね。もしどこかで繋がる部分があれば、くらいの感じでしょうか」
「そうだよねぇ。ゲノム編集だもんね」
ですね、と群司は頷いた。
「まあ、創薬の分野でも、遺伝子の書き換えは無関係じゃないけどね。群ちゃんも知ってのとおり。けど、学士の卒論でそこまで手をひろげるのはさすがに難しいか」
「だと思います。この件に関しては、俺個人の興味がまさってたっていうか」
「そういうの、大事だと思うよ」
群司の言葉を坂巻は肯定した。
「さっきも言ったけど、あらゆることに興味や関心を持って、柔軟な思考と発想力で検証していこうとする姿勢は、俺たちみたいな人間には必要だからね」
言ったところで、坂巻は時計を確認した。
「おっと、そろそろ時間だ。戻るかな」
テーブルに両手をついて立ち上がる。一時まで、あと五分を切っていた。
思いのほか長居をしてしまったと群司も席を立った。
「さぁて、人類の明るい未来のために、午後も頑張りますかねぇ」
言いながら、坂巻は大きく伸びをする。
ゴミ箱に空き缶を捨てると、群司は坂巻とともに休憩スペースをあとにした。
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