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第7章 第1話(2)
「俺の息子はな、友哉 は、おまえらの創った薬のせいで死んじまったんだよっ。まだ八つだったのに。これから楽しいことも、嬉しいこともたくさん経験して幸せな人生を送っていけるはずだったのによっ! おまえらが殺したんだっ!」
早乙女を捕らえたまま、男は放さない。
「動物が好きでサッカーが好きで、本を読むことも電車に乗ることも大好きで。思いやりがあって素直な優しい子だった。たくさんの可能性に溢れてたっ。俺にとって――俺たち夫婦にとってはかけがえのない宝物だった。それが一瞬で消えてなくなったっ! なあ、なんでだよ。なんで友哉なんだよっ。腎臓悪くして、つらい治療も必死で耐えて、絶対元気になるんだって小さな躰で頑張ってきたのに、あんなわけのわかんない薬で全部パーだよ。なにもかも、一瞬でだいなしだよっ」
男の声はさらに大きくなっていく。
「おまえらの会社のキャッチコピー、『生命を未来へ――』とかいうんだってな? なにが『生命を未来へ――』だよ。だったら俺の息子返せよ! 友哉はおまえらに殺されたんだ! おまえらが殺したんだよ、この人殺しっ」
男は絶叫した。
早乙女は動かない。いつもの彼なら、理路整然と相手を説くか、あるいはあくまでもこの場では相手にせず、毅然とした態度で立ち去っても不思議ではなかった。だがなぜかいまは、冷静に対処することができず、立ち竦んでいるように見えた。
「なんとか言えよ、おいっ。黙ってねえで、なんか言ってみろよ!」
蒼褪めた顔で立ち尽くす早乙女の胸倉を、男は乱暴に掴みあげた。遠巻きになりながら、さすがに騒ぎを気にして足を止める者たちが出はじめる。群衆が固唾を呑んで見守る中で、男は拳を振り上げ、勢いよく振り下ろした。
ガツッという鈍い音がして眼鏡が弾け飛び、周囲にいた人々のあいだから小さな悲鳴があがった。
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