76 / 234
第8章 第2話(1)
十四時少しまえ、群司は二十階にある創薬本部の第三会議室に足を運んだ。
先日坂巻班が研究発表を行った第一会議室とおなじ並びだが、こちらはだいぶこぢんまりとした、少人数向けのスペースとなっていた。
ドアをノックして、失礼しますと声をかけながら中に入る。先に到着して待っていたのは、意外な人物だった。
「早乙女さん?」
「……っ」
群司が呼ばれていることは知らなかったのだろう。中央に配置されたテーブルの、廊下側の端の席に座っていた早乙女は、群司の顔を見るなり驚いた様子で腰を浮かせた。
「あ、こんにちは。ひょっとして早乙女さんも、天城顧問から呼ばれたんですか?」
群司が尋ねると、早乙女は気まずげに視線を逸らした。自分の存在が気に入らないのか、先日の件を引きずっているのかは不明――おそらくその両方だろう――だが、とにかく不本意な再会であったことは間違いないようである。
「あら、ふたりとも、もう来てたのね」
ちょうどそこへ、群司たちをこの場に呼び立てたとうの天城瑠唯が登場した。
「天城顧問、先日はありがとうございました。立派なお見舞いをいただきまして」
「いいえ、とんでもないわ。こちらこそ大切な社員を守っていただいたのだから、あんな程度では足りないくらい。その後、怪我の具合は如何?」
「大丈夫です。おかげさまで傷口もほぼ塞がりました」
「そう、それならよかったわ。報せを受けたときは本当に驚いたのよ」
「ご心配おかけしてすみませんでした」
「いいえ、いいの」
天城瑠唯は、とりあえず座りましょうと群司と早乙女をうながした。
窓を背にしたいちばん奥の席に天城瑠唯が座り、その両サイドに群司と早乙女が向かい合って座る。
「今日、ふたりを呼んだのは、これからのことについて話しておこうと思ったからなの」
そう切り出した天城瑠唯は、群司を顧みた。
「八神くん、我が社に入ることを決断してくれてありがとう。心から歓迎するわ」
「こちらこそ、いろいろご配慮いただいてありがとうございました。あらためまして、来年からよろしくお願いします」
群司が頭を下げると、天城瑠唯はこちらこそと優雅な微笑みを浮かべた。
ともだちにシェアしよう!