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第8章 第2話(1)

 十四時少しまえ、群司は二十階にある創薬本部の第三会議室に足を運んだ。  先日坂巻班が研究発表を行った第一会議室とおなじ並びだが、こちらはだいぶこぢんまりとした、少人数向けのスペースとなっていた。  ドアをノックして、失礼しますと声をかけながら中に入る。先に到着して待っていたのは、意外な人物だった。 「早乙女さん?」 「……っ」  群司が呼ばれていることは知らなかったのだろう。中央に配置されたテーブルの、廊下側の端の席に座っていた早乙女は、群司の顔を見るなり驚いた様子で腰を浮かせた。 「あ、こんにちは。ひょっとして早乙女さんも、天城顧問から呼ばれたんですか?」  群司が尋ねると、早乙女は気まずげに視線を逸らした。自分の存在が気に入らないのか、先日の件を引きずっているのかは不明――おそらくその両方だろう――だが、とにかく不本意な再会であったことは間違いないようである。 「あら、ふたりとも、もう来てたのね」  ちょうどそこへ、群司たちをこの場に呼び立てたとうの天城瑠唯が登場した。 「天城顧問、先日はありがとうございました。立派なお見舞いをいただきまして」 「いいえ、とんでもないわ。こちらこそ大切な社員を守っていただいたのだから、あんな程度では足りないくらい。その後、怪我の具合は如何?」 「大丈夫です。おかげさまで傷口もほぼ塞がりました」 「そう、それならよかったわ。報せを受けたときは本当に驚いたのよ」 「ご心配おかけしてすみませんでした」 「いいえ、いいの」  天城瑠唯は、とりあえず座りましょうと群司と早乙女をうながした。  窓を背にしたいちばん奥の席に天城瑠唯が座り、その両サイドに群司と早乙女が向かい合って座る。 「今日、ふたりを呼んだのは、これからのことについて話しておこうと思ったからなの」  そう切り出した天城瑠唯は、群司を顧みた。 「八神くん、我が社に入ることを決断してくれてありがとう。心から歓迎するわ」 「こちらこそ、いろいろご配慮いただいてありがとうございました。あらためまして、来年からよろしくお願いします」  群司が頭を下げると、天城瑠唯はこちらこそと優雅な微笑みを浮かべた。

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