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第8章 第2話(2)
「それでね、あなたを正式にお迎えするにあたって、ぜひお願いしたいことがあるの」
「なんでしょう?」
「門脇部長からの強い要望もあるから、あなたの配属部署は、いま研究アシスタントをしてもらっているバイオ医薬研究部になると思うの。でもね、それともうひとつ、別の研究チームにも入ってもらいたい。そう考えてるところ」
天城瑠唯の言葉に、群司の顔を見たときから顔を硬張 らせていた早乙女の表情が、ますます硬くなって血の気を失っていった。
「それは、来年正式に入社したあかつきには、ふたつの部署を掛け持ちすることになるということでしょうか?」
「そうね。そういうことになるわ」
天城瑠唯は首肯して、早乙女くんみたいに、と視線を送った。
「早乙女さんも?」
早乙女は、ふたりの視線を避けるようにテーブルに目線を落とした。
「マージナル・プロジェクト。早乙女くんにはね、我が社でもトップクラスの機密を扱っているこの研究チームに、一年ほどまえから参加してもらっているの」
瞬間、群司の鼓動が跳ねた。
「マージナル・プロジェクト……」
「そう、境界にあるもの、という意味」
なんの境界であるのかまで、天城瑠唯は説明しなかった。
「それでね、どんなことをやっているのか、八神くんにも一度、見学してもらおうと思って」
早乙女は途端にハッとしたように顔を上げた。
「天城顧問、それは…っ」
「早乙女くん」
あきらかに異論を唱えかけた早乙女を、天城瑠唯は制した。
「これはもう、決定事項なの。あなたがなにをどう言ったところで覆 らない」
「ですが彼は、まだ正式な社員ではありません。社内でも、ごく一部のかぎられた者にしか知らされて機密を、部外者である彼に明かすことはできかねます。私は反対です」
「いいえ、部外者じゃないわ。正社員でなくとも、八神くんは研究アシスタントとしてこの会社に籍を置いている。それに、バイオ医薬研究部でも、それなりに機密性の高いものを扱うことが許されて、部内からの信頼も充分すぎるほど得ている。私は彼を、すでに身内の人間だと思っているわ」
静かな、けれども揺るぎない口調で断言されて、早乙女は口唇 を噛みしめた。
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