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第8章 第2話(3)
「早乙女くん、あなたが会社のためを思って心配してくれているってことはわかってる。でも、八神くんなら心配はいらない。とても優秀で、節度も弁えている信頼の置ける人だから」
だからお願い、と天城瑠唯は訴えかけるように言った。
「研究者としての道を歩みはじめた彼のために、先輩として少しでも手を差し伸べてあげてくれないかしら」
ゆくゆくは会社を継いでトップに立つだろう相手に頼みこまれては、さすがの早乙女でも無下にはできなかったと見える。自分にできる範囲でよければと、言葉少なに承諾した。
「よかったわ。これから八神くんも、なにかあったら早乙女くんに相談するようにしてね」
「はい、よろしくお願いします」
素直に応じながらも、内心では、それは難しいだろうと群司は考えていた。
社長令嬢の手前、早乙女は従順なそぶりを見せている。だがそのじつ、決して群司の存在を受け容れているわけではない。むしろかつて面と向かって言われたように、目障りで邪魔な存在だと思っていることだろう。
群司は最初から、早乙女にとって気にくわない、目障りな存在であったことは間違いない。関わるほどにその態度は頑なで、冷たく、辛辣になっていった。その群司が特別枠で採用されることが決定し、さらには重要なプロジェクトの新メンバーに加えられようとしているともなれば、これからの風当たりは、ますますきつくなると思われた。
だが、正直群司には願ってもない展開だった。早乙女にとっては不本意このうえないだろうが、これで配属部署が異なっても接点ができる。
知り合った当初からずっと、群司の中で早乙女は要注意人物の筆頭に挙がっていた。その認識は、いまも変わらない。これで心置きなく早乙女に関わっていけるのであれば、それだけで充分、入社を決めた甲斐はあったというものだろう。
「それじゃあ八神くん、マージナル・プロジェクトの専用ラボにこれから案内するけれど、早乙女くんもさっき言ったように、この件は社内でも極秘中の極秘事項だから、他言は絶対に無用ということを心得ておいてね」
「わかりました。決して口外はしません」
「ありがとう」
天城瑠唯は、満足げな様子でゆったりと笑んだ。
美貌の令嬢にうながされて、群司と早乙女も席を立つ。チラリと視線を送った先で、血の気の失せた白い顔を早乙女は俯けていた。
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