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第8章 第3話(4)
「わたしはこうしてフェリスによって生命を救われたけれど、実際のところ、薬はまだ完成していない。試験段階にある」
天城瑠唯の視線が、突き刺さるほどの強さで自分に向けられているのを気配で感じた。
「八神くん、あなたにはバイオ医薬研究部で新薬の開発に取り組んでもらう傍ら、マージナル・プロジェクトにも籍を置いて、フェリスの完成を目指してほしい。引き受けてもらえるかしら?」
怯 む心を制し、群司は意を決して天城瑠唯を顧みた。
「――その、実際に物質を発見したという人は……」
「残念ながら、すでに亡くなっているわ」
問いかけに対して、天城瑠唯は沈痛な面持ちで言った。
「セオドア・フェリス博士はバイオテクノロジーの第一人者だった。アメリカのマサチューセッツ州にある研究所で、生命情報科学 などを中心に、日々、有限である生命活動を次の段階へと引き上げるためのメカニズムの解明に心血を注いでおられた。そんな中で偶然生み出されたのが、自発的にDNAのバグ修正を行う物質。彼の研究内容に関する情報を得たのは、もちろん我が社の業種によるところが大きいけれど、実際のところは、わたしが症例の少ない難病を患っていたことに起因する」
「治療方法を見つけるため、ということですね?」
「そう。両親は私の病気を治すために、ありとあらゆる治療法を模索し、世界中から情報を掻き集めて解決の糸口を見つけ出そうと奔走した。そんな中で、さまざまな伝手 を頼ってたどり着いたのが博士の研究だった」
そこからの行動は、迅速を極めたという。
「ここでは詳細を省くけれども、いろいろ根回しをして、当初は難色を示していた研究所側を口説き落とし、天城製薬がスポンサーとなって彼の研究を押し進めることに尽力することとなった。わたしはそのおかげで、こうして生命を存 えることができたというわけ。けれどもフェリス博士は、志半ばで彼岸へと旅立ってしまわれた。だからその後の研究は、我が社で引き継いでこうして開発を進めている。それがこのプロジェクトを立ち上げた理由」
「研究に関して、社内でも極秘扱いなのはなぜですか?」
「それがフェリス博士のご遺志だったから」
天城瑠唯の答えは明快を極めた。
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