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第8章 第3話(5)

「この薬は絶大な効力を発揮するけれど、そのぶん、人体に及ぼす影響もとてつもなく強い。だから未完成の段階で第三者にその存在を知られてしまうことは、いろいろな意味で危険を伴ってくることになる。薬が完成して、安全な状態で提供できるようになるまでは徹底的に秘匿すること。それがフェリス博士の出した絶対条件で、我々はそれを無条件に呑むことで博士から開発を引き継ぐ許可をいただいた。この状況は少し仰々しく映るかもしれないけれど、そういう事情があってのことだとあなたにも理解してほしい」 「お話はよくわかりました」  明かされた内容に対して、群司は柔軟に受け容れる姿勢を示した。 「俺を信頼してここまで打ち明けてくださった天城顧問を裏切ることがないよう、肝に銘じます」  断言したあとで、わずかに戸惑いを滲ませる。 「でも、そんな重要なことを、この段階で俺に話してしまってもよかったんですか?」 「いまさらだわね」  美貌の社長令嬢は愉しげに笑った。 「マージナル・プロジェクトの存在を明かして、この研究室に案内している時点ですでに禁忌を犯しているに等しい状態だもの。そこにひとつふたつ補足を加えたところで、大した差はないのではなくて?」 「まあ、それはたしかに……」 「わたしはね、八神くん」  天城瑠唯はわずかに躰の向きを変えると、真っ正面から群司と対峙した。 「あなたをこのプロジェクトに加えると決意した時点で、相応の覚悟を決めている。早乙女くんのときもそうだったように」 「ふたつの部署を掛け持ちするのは、俺たちふたりだけということですか?」  群司の問いかけに、少なくともいまの時点ではという答えが返ってきた。 「あまりプレッシャーをかけるようなことは言いたくないのだけれど、あなたたちにはそれくらい、大きな期待を寄せている。だから八神くん、あなたにもぜひ、それなりの覚悟をもって臨んでほしい。そう願ってるわ」  人類をさらなる高みへと引き上げる手助けをしてほしいと言う。  さりげなく視界の端でとらえた早乙女は、なおも変わらず、人形のような無表情で入口付近に佇立したままだった。 「わかりました。俺でよければ」  内面に渦巻く思いをすべて押し殺し、群司は最善を尽くす旨をきっぱりと誓った。 「期待してるわ」  やはりあなたを選んで正解だった。天城瑠唯は、そう言っていかにも満足げな笑みを口許に浮かべた。

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