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第8章 第4話(3)

「まあ俺もさ、かみさんと再会するまでに何人かと付き合ったりもしたけど、その中でも、いまのかみさんがいちばんしっくりくる相手だったっていうか」  チビチビと焼酎を口にしながら、坂巻はつづきを話しはじめた。 「最初は友だちづきあいが復活した感じだったんだけどね。気心知れてるし、向こうもちょうど、付き合ってた相手と別れたところだっていうんで、じゃあいっそのこと、ヨリ戻しちまうか、みたいな」 「そういうのも縁なんでしょうね」 「そうだねぇ。そういうことになるのかな」 「で、結婚したあとも順調、と」 「子供はまだだけどね」 「それこそ授かり物ですから、そういうタイミングが来れば子宝にも恵まれるんじゃないですか?」  言った途端に坂巻は吹き出した。 「群ちゃん、若いのにときどき、妙に年寄り臭いこと言うよね」 「え? そうですか?」 「そうだよ。俺、いま定年間際の上司に諭されてるのかと思ったもん」  坂巻はなおもおかしそうに笑い転げる。目尻の涙を拭う坂巻に、群司は笑いすぎですよと抗議した。 「とりあえず、坂巻さんが奥さんにベタ惚れだっていうことはよくわかりました」 「あ~、そうね。なんだろな、再会したときって最初友達感覚で付き合ってたからさ、相手に対して燃え上がるような恋心とか、意味もなくドキドキしたり舞い上がったり、みたいなことも全然なかったんだよね。むしろ昔付き合ってたぶん、変に気負ったりカッコつけたりする必要もなくて、素のままでいられたっていうか」  坂巻は自分のグラスに焼酎を注ぎ足しながら言った。群司が代わろうとすると、いいからいいからと制する。 「たぶん、向こうもおなじだったんじゃないかな。だから付き合いはじめみたいな新鮮さは全然なかったけど、お互い社会に出てひと皮剥けてたし、いい意味で角がまるくなって、人間的にも成熟して、そこからあらためて向き合ってみたらすごく相手との関係がしっくりきたっていうか」 「また古臭いとか年寄り臭いとか言われそうですけど、そういう巡り合わせだったんじゃないですか?」 「そうだねぇ」  今度は坂巻も笑わずに同意した。 「運命、だったんだろうな……」  軽いノリで返してくるかと思いきや、やけに真面目な調子で言われて群司は面食らった。だが、そんな群司をチラリと見やると、坂巻はすぐに意味深な顔でニヤリと口の端を上げる。 「群ちゃん、イケメンのくせして全然恋愛慣れしてねえな。ここは思いっきり笑い飛ばすか、ツッコむところだろ」 「いや、いくら無礼講でも、それはさすがに……」 「いーのいーの。俺は群ちゃんとジャレ合いたいんだから。ってか、群ちゃんも早く見つけなさいよ、自分の人生懸けても惜しくないと思えるような相手」 「いますかねぇ、俺にもそんな相手」 「いるでしょ。群ちゃんはまだ若いんだし、イケメンだし、将来有望なんだから」 「えっと、それだとまえに言ってた打算的な相手になりませんか?」 「いろいろ経験して、酸いも甘いも噛み分けるのが大事なのよ」  胸を張られて群司は笑った。アルコールがまわってきたのか、妙にふわふわとする。

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