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第8章 第4話(4)

「それじゃあ、俺も坂巻夫妻を目標に頑張ります」 「おー、頑張れ頑張れ。もし相手の人間性見極めるのに迷ったら、俺がちゃんと、厳しく吟味してやるから」 「頼りにしてます」 「大事な弟分の幸せのためなら当然のことよ」  言ったあとで、そういえば、とあらたまったように訊かれた。 「群ちゃんて兄弟いるの? しっかりしてるから弟か妹がいる感じ? けど、俺ら年上にかまわれるのもいい感じに慣れてるよね。ひとりっ子?」 「いえ、上に兄がいます。ふたり兄弟で俺が弟ですね」 「あ~、そうなんだ。そのわりには妙に自立心が強そうっていうか、あんまだれかに頼るってことないよね。自分の頭で考えて実行して自力で解決しちゃうタイプ。兄弟の下の子にありがちな、独特の要領のよさとか調子よさがないっていうか」 「そう、なんですかね? 自分じゃよくわからないですけど」 「そうそう、なんかちょっと掴みどころがない感じなの、群ちゃんて。親の期待一身に背負ってます、みたいな長男長女にありがちのカチッとしたところもないし、ひとりっ子ならではのマイペースさとか自分中心的なところもなし。それなのに年上に可愛がられることにも妙に慣れててさ。だからいっそ、五、六人兄弟がいるような大家族の真ん中らへんなのかなぁとかね、思ってたわけ」 「違いますね。ごく一般的なふたり兄弟です」  群司は笑った。 「でも、うちの場合はたしかに少し特殊なのかも。兄貴とは十歳離れてるんで」 「ああ、なるほど、そういうことか」  坂巻は手を打った。 「そうかそうか、それなら納得。へ~、そっかぁ。十歳差だとお兄さんはいま三十二?」 「あ……、えっと、まあ……」  答えながら、顔が硬張りそうになるのを懸命に(こら)えた。できれば、この話はこれ以上つづけたくなかった。 「群ちゃんのお兄さんなら、やっぱ超イケメンなんだろうなぁ。似てる?」 「どう、なんですかね。たぶんそれなりに……」  笑顔を張りつかせながら、グラスを呷る。  冷水を浴びたように楽しい気分が冷え、急激に緊張を感じたせいか、酔いが一気にまわってきたような、奇妙な感覚に襲われた。

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