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第9章 第2話(1)

 躰が熱い。  全身が燃えるように熱く感じるのに、寒くてたまらなかった。  微睡(まどろ)みの中にいてなお、強烈な眩暈と不快な浮遊感に翻弄される。だが不意に、ひんやりと心地のいいものが額に触れて、苦痛がやわらいだ。朦朧としながら目を開けると、ぼんやりとした視界に人影が映った。  喉がからからに渇いていまにも干上がりそうだったが、それもまた、濡れたなにかで丁寧に口唇(くちびる)を湿されていくうち、次第におさまっていった。  次に意識がはっきりしたとき、窓から差しこむ西陽はだいぶ傾いていた。  頭痛はすでに治まっていたが、寝すぎたせいかひどく頭が重い。  寝返りを打ったところでドアが開く音がしたため、群司は咄嗟に目を閉じて、眠っているふりをした。  近づいてきた気配が様子を窺うように覗きこむ。  掌がそっと額に触れ、その触れかたがひどく優しくて戸惑いをおぼえた。自分に対するこれまでの態度と、掌から伝わるぬくもりとが一致しない。だがそれは、熱に浮かされていたあいだ、何度も気遣うように触れた手だった。  自分はこの状況を、どう受け止めればいいのだろう。  混乱がおさまらないでいるうちに、触れていた手がゆっくりと離れていく。なにをどうすべきか判断がつかないまま、群司は反射的に、その手首を掴んでいた。 「――っ」  息を呑んだ早乙女が、咄嗟に手を引っこめようとするのをさらに強く掴んで群司は目を開けた。 「起きていたんですね。気分は?」  平静を装う早乙女の顔を、群司はじっと()つめた。 「いいわけないですよね? 俺、なんで拘束されてるんですか?」 「……充分、元気になったみたいですね。なにか食べるものを持ってきます。それから着替えも。汗で濡れて、気持ち悪いでしょうから」  手を振りほどいて離れていこうとするのを引き戻し、群司は布団を跳ね上げて早乙女の躰を自分の下に組み敷いた。  それだけで大きく息があがるが、午前中に目を覚ましたときよりは遙かにましだった。

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