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第9章 第2話(2)

「もう一度訊きます。あなたの目的はなんですか?」  両手首を頭の両わきに縫いつけるように押さえこんで、群司は早乙女に鋭い眼差しを向けた。早乙女はじっとしている。抵抗するそぶりすら見せず、ただ静かに群司を見上げていた。 「質問に答えて納得できたら、おとなしく従ってくれるんですか?」 「無理ですね。いまの時点で、すでに我慢の限界なんで」 「ならば、答えるだけ損ですよね? 放してください。お互い、顔を合わせていても不愉快になる一方でしょうから」 「俺が目障りですか?」  尋ねた群司の顔を見返した早乙女は、迷うことなくきっぱりと肯定した。 「ええ、目障りです。とても」 「それは俺が、天城顧問に目をかけてもらっているからですか?」 「そうです」 「天城顧問のお気に入りという特等席を、俺が奪おうとしているから?」 「そうです」 「あなただけに許された極秘プロジェクトへの参加を、ただの研究アシスタントに過ぎない俺が早々に許されたから?」 「そうです」 「だから居酒屋で都合よく正体をなくした俺を連れ帰って、監禁することにした、と?」 「そうです。あなたは目障りで、私の邪魔にしかならない。あなたがいると困るんです。もう、会社にも出入りしてほしくない。人の苦労も知らないで、平気で大切に守っている領域に土足で踏みこむような真似をする。これ以上、勝手なことをされるのは我慢がならないんです。だから身柄を拘束することにしました」  早乙女は淡々と言葉を紡ぐ。言っていることとやっていることとのあいだに、奇妙な乖離があった。 「早乙女さん、俺のことが嫌いなんですよね?」 「嫌いです」 「そんな、顔も見たくないほど毛嫌いしてる相手に、あそこまで献身的な看病ってできるものなんですかね?」  記憶は(おぼろ)だが、額を冷たいタオルで何度も冷やし、首筋の汗を丁寧に拭ってくれた感触はぼんやりと残っている。渇ききった喉を潤すために、濡らした布で、根気よく口唇を湿らせてくれたことも。 「症状が悪化して、死なれでもしたらあとあと面倒だからですっ」  早乙女がややむきになって言い返してきた。だが、群司は取り合わなかった。

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