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第9章 第2話(4)

「もうこれ以上はやめましょうよ。あなたがなにをどうとぼけてシラを切ったところで、俺の目は欺けない。あんたは間違いなく兄貴を知ってる。それからフェリスと呼ばれる薬が、どういう種類の薬なのかも!」  押さえこむ群司の拘束から逃れようと、早乙女が死にもの狂いでもがいて抗う。揉み合ううちに、暴れる早乙女のズボンのポケットからなにかが滑り出て、軋みをたてるベッドからゴトリと床に落ちた。  気づいた早乙女が、ハッとする。群司もまた、落ちたものに何気なく視線をやってそのまま固まった。  目に留まったのは、携帯の端末。だがそのカバーに、見覚えがあった。 「兄貴の、携帯……?」  茫然と呟く群司の下で、たったいままで激しく抵抗していた早乙女の躰から力が抜けた。  亡くなったとき身につけておらず、自宅マンションの遺品整理をしたときにも、結局最後まで見つからなかった兄のスマートフォン。それが、ここにある。 「なんで、こんなとこに……」  早乙女の躰に半分馬乗りになった状態で、群司は携帯から自分の真下にいる相手に視線を戻した。  早乙女は顔を背け、きつく目を閉じる。  群司の脳裡に、これまでの出来事が一気に思い返された。最後に兄と会ったときのこと。兄の死の報せを受けて、両親とともに管轄の警察署に出向いたときのこと。遺品整理のために、兄のマンションを訪れたときのこと。  なにもかもが納得いかなくて、偶然耳にした噂話で怪しい薬物の存在を知り、その真相を探るために天城製薬へと潜りこんだ。そこで『ルイ』という名の社長令嬢と知り合い、彼女が目をかけている早乙女の存在を絶えず意識するようになって―― 「……れが、殺した」  群司から顔を背けたまま、早乙女が搾り出すような声で言った。群司は無言のまま早乙女を見下ろした。 「俺が殺したんだ、あの人を……」 「早乙女、さん?」 「優悟さんを殺したのは俺だ。俺なんだっ」  血を吐くような告白。  室内が、静まりかえった。

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