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第9章 第3話(5)

「お互い、素性がバレるわけにはいかなかったから外では極力会わないようにして、連絡を取り合うときには、プライベートの携帯を使うことにしてた」  用心に用心を重ね、職場以外での接点は持たないようにしたのだという。  細心の注意を払いながら、互いに得た情報を交換し合って捜査をつづけた日々―― 「あ、えっと、それじゃ俺、ここにお邪魔しちゃまずかったですよね?」  群司は少しあわてた。 「え?」 「あ、いや。この部屋のことがバレないように、琉生さんも出入りを控えてたんじゃないかと思って。だけど俺が倒れてやむなくってことだったら、申し訳ないなと」  言った途端に早乙女――否、如月はなんだという顔をした。 「べつに責任を感じる必要はない。君をここへ連れてきたのは、介抱するためではなく、監禁するのに最適だったというだけだから」  早乙女名義の部屋に連れこむわけにはいかなかったと言われて、思わず拍子抜けした。  そういえば、ついさっきまで拘束されていたのだったと思い出して一気に脱力する。 「なんかもしかして、琉生さん、俺のこと連れこむ気満々でした?」 「へっ、変な言いまわしするなっ」  如月は顔を赤くしながら抗議した。 「今回のことは、おまえがああいうことになったから咄嗟に思いついただけだ」 「え~、でもあの場にいた時点で偶然じゃないですよね? ってか琉生さん、そんな華奢(きゃしゃ)な見た目して、意外と力持ちなんですね。俺のほうが全然ガタイいいのに、よくここまで運べたなって。いまさらなんですけど」 「おまえが自分で歩いてきたんだろっ」  勝手に怪力扱いするなと怒られて、群司はポカンとした。 「え? 俺が自力で?」 「俺は軽く肩を貸しただけで、おまえが自分で歩いて店を出て、タクシーに乗って、このマンションのエントランスで降りたあとも普通に歩いて部屋まで来た」  言われても、記憶がごっそりと抜け落ちていて、まるでおぼえがない。群司は愕然とした。 「え……、俺、ヤバいかも……」  呟いた直後に、サーッと血の気が引いていくのがわかった。 「あの、メチャクチャ言い訳がましいですけど、俺、これまで酒で失敗したことは一度もなくてですね、一応、その辺の飲みかたは弁えてたっていうか。今回もそんな飲んだつもりは全然なくて……」  どう考えても言い訳でしかない言葉を途中で呑みこんで、群司は頭を抱えた。 「うわ、マジで最悪……。しばらく酒、やめようかな……」  やらかした失態に悶絶したくなる衝動に駆られつつ、途切れた記憶の断片をどうにか拾えないかと頭の中を探ってみる。しかし、居酒屋の男子トイレに行ったあとのことは微塵も思い出せなかった。ついでに言えば、やはりどうしても、そこまで泥酔するほど飲んだおぼえもない。 「八神、そのことなんだが」  遠慮がちに声をかけられて、群司は顔を上げた。

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