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第9章 第3話(6)

「君がああなったのは、おそらくアルコールのせいではなくて、薬の影響かと……。そのあとの高熱も含めて」 「……薬?」  言われた意味がわからず、群司は胡乱(うろん)げに眉を顰めた。 「たぶん、君が口にしたものの中に、薬が混ぜられていたのだと思う」 「え……、ちょっと待ってください。だれがそんな……って、さおと――琉生さん、ですか?」  群司の身柄を押さえるために、強硬手段に出た。そういうことかと思った。だが、如月は即座にそれを否定した。 「違う。私ではない」 「でもそれじゃ……」  ほかにだれがいるのだと尋ねようとして、顔が硬張っていく。  急速に訪れた酩酊感。頭がまわらず、意識が散漫になって会話に集中できなくなった。  思考を垂れ流すように思ったことをそのまま口にしてしまいそうな自分がいて、このままではまずいと酔いを覚ますために席を立った。  これまでに味わったことのない不快感。理性が溶けていくような、それでいて抗うことのできないなにかに支配されていくような、強烈な、なんともいえない気持ちの悪い感覚――  あれは、アルコールのせいではなかった?  如月の言葉に、それでも心のどこかで、ああ、やはりと納得する自分がいる。けれども、そこから導き出される結論はただひとつで―― 「いや、まさかそんな……」  認めることができずに、群司は否定の言葉を口にした。だが、感情の部分で受け容れることができなくとも、起こった出来事を冷静に思い起こせば事実は浮き彫りになってくる。  店員でも如月でもなく、ましてやただの通りすがりのだれかでもなく、群司の口にするものに薬を混ぜることのできた人物。  なぜ、と思わずにいられなかった。  いくら考えてみても、動機が思いあたらない。その一方で、原因や理由ならば思いあたるふしが嫌というほどある。群司は、社内の極秘プロジェクトのメンバーとなることが決定していた。  美味しいから飲んでみるか。そう言って手慣れた様子で作ってくれた梅割り。だが、坂巻の酒は、炭酸で割られていただろうか。 「琉生さん」  群司は重い口を開いた。 「俺に盛られた薬の種類、わかりますか?」 「大体の見当ならつく」  ただし、私見にすぎないがと添えられた。 「かまわないです。教えてもらえますか?」  群司の眼差しをまっすぐに受け止めた如月は、自身が導き出した結論を迷いなく口にした。 「たぶん、薬効の現れかたから見て、独自に調合されていると思う。でも、主成分として使用されているのは、おそらくアミタール」  両の拳を握りしめた群司は、静かに目を閉じ、ぐっと奥歯を噛みしめた。

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