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第10章 第1話(2)
「琉生さんは俺に、内定も辞退してほしいと思ってるかもしれないけど、たぶんそれ、もう無理だと思うんです。俺はおそらく、とっくの昔に目をつけられてる。あなたもそれがわかってたから、監禁まがいの強硬手段に出たんじゃないですか?」
答えることを拒むように、如月は顔を背けた。それこそが回答になっていた。
「就職難のこの時代に、ただバイトをしてたっていうだけで俺は採用試験すら受けずに内定をもらってる。そこまでの特別待遇を受けられるほど、傑出した人間じゃないことは自分がいちばんよくわかってます。それだけでも充分特殊なのに、正式な社員ですらほとんど知らされてない極秘プロジェクトのメンバーにまで選ばれるとか、まずあり得ないですよね? 少し重宝されてる程度の研究アシスタントには、あまりにも過ぎた話です。完全に常軌を逸してる」
「八神……」
「じゃあ、その特別待遇がどこからくるのかと言えば、考えられるのはひとつしかない」
次第に蒼褪めていく如月の様子を見ながら、群司は断言した。
「兄貴の素性はすでに割れてるだろうし、俺のことだって、ちょっと調べればすぐに家族構成からなにから筒抜けのはずです。俺が会社に入りこんだ理由も。天城顧問はだから、俺に目をかけるようになった――いえ、目をつけるようになった、が正しいんでしょう。ひょっとして琉生さんも、おなじ理由でプロジェクトに加えられたんじゃないですか?」
言った途端に、如月は視線を逸らした。当然、如月もわかっていたのだろう。
「たしか琉生さんが加わったのは、一年前からってことでしたよね。だとしたら、兄貴が亡くなったすぐあとってことになる。もちろん、あなた自身が優秀であることは間違いないですけど、営業部にいたとき、兄貴はあなたの許に通いつめてた。だからあなたも、兄貴となんらかの繋がりがあるんじゃないかと疑われて――」
不意に横合いから伸びてきた手に口許を押さえこまれて、群司は言葉をつづけられなくなった。これ以上は言うな、ということらしい。
如月は俯いている。だが、群司の口を押さえる手が、かすかにふるえていた。
こんなのは反則だと思った。これでは如月のペースに巻きこまれてしまって、冷静に話をすることができない。以前のように、棘のある態度で噛みついてきてくれたほうが、まだ自分を保つことができた。
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