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第10章 第3話(1)

「琉生さん、お待たせ。飯の支度、できましたよ」  土曜の午後、いつものように如月のマンションで作業を進めていた群司は、途中で作業を如月にバトンタッチしてキッチンに立っていた。時刻はすでに二時半をまわっていて、お昼というにはいささか遅すぎる時間帯である。放っておくと如月は、作業を優先して食事を疎かにするところがあるため、最近では群司が食事係を担当するようになっていた。  といっても、群司もとくに料理が得意というわけではない。スーパーの惣菜売り場で出来合いのカツを買ってきてカツ丼にするとか、カレーや焼きそば、オムライスを作るとか、その程度のことでレパートリーは少ない。それでも、栄養補助食品一本で済ませようとする如月より、遙かにましというものだろう。自分のことになると、とことん無頓着になるのが困りものだった。  今日のメニューはネギとチャーシューをたっぷり入れたチャーハンで、中華だしを使ったスープも用意した。自分としてはなかなかいい出来だと思うのだが、声をかけたにもかかわらず、奥のリビングから如月の返事はない。盛りつけた皿を食卓に運びつつ様子を窺うと、床に座ってノートパソコンで作業をしていたはずの如月は、いつのまにかローテーブルに突っ伏して眠っていた。  群司はやれやれと苦笑する。天城製薬の研究員としての仕事と麻薬取締官としての任務と。つねに緊張を強いられる日々の中で、疲労もかなり蓄積しているのだろう。  最初のうちは硬い態度になりがちだった如月も、ともに過ごす時間が増えるにつれ、いろいろな表情を見せてくれるようになった。こうして群司がいるところで居眠りをしているのも、それだけ気を許した証拠なのだと思うと、それだけで自然に口許がほころんだ。  疲れが溜まっている如月を、できればこのまま休ませてやりたいところではあるが、食事のタイミングがずれると夕飯はいらないということになりかねない。食に対して関心が薄いので、自分の目が届く範囲だけでもしっかり栄養をつけさせねばと妙な使命感に燃えていた。 「琉生さん、こんなところで(うた)た寝してると風邪引きますよ」  テーブルをセッティングし終えた群司は、如月の傍らに膝をついて声をかけた。 「眠かったら少し腹に入れて、それからベッドで寝てください」  背中に手を添えて根気強く話しかけると、如月はかすかに眉間に皺を寄せて「んん」と反応する。 「ほら起きて、琉生さん」 「ん……、優悟、さん……?」  呟いたところで、如月はハッとしたように目を開けた。

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