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第10章 第3話(2)

「あ、八神……」  思わず固まった群司を見て、如月は狼狽(うろた)えた様子を見せる。 「ご、ごめ……。寝ぼけてて……」  顔が硬張りそうになるのを群司はなんとか誤魔化して、笑顔を作った。 「声、似てました? いままで似てるって言われたことなかったんで、自分ではよくわからないんですけど」 「ち、ちが……。ほんとに寝ぼけてただけ」 「風邪引かないように気をつけてくださいね。食べたら今度はもう一回、ベッドでちゃんと休みましょうか」 「だい、じょぶ。もう目、覚めたから」  気まずさが先に立つのか寝起きだからなのか、如月の口調は変に舌足らずで、普段の冷徹なそれからはかけ離れていた。  群司が立ち上がるついでに如月の腕をとると、素直に一緒に立ち上がる。 「じゃ、食べましょうか。今回はたぶん、わりといい出来なんで」 「八神」  呼ばれて振り返ると、如月は群司を見上げてきた。 「その、ほんとにすまなかった」 「いいですよ、気にしないでください」  群司はあらためて如月に笑いかけた。 「っていうか、そんなつぶらな瞳で可愛く見上げてこないでください。叱られた仔犬みたいな顔してますよ?」 「なっ!」  如月は途端に顔を赤くした。 「三十手前の男に仔犬とか言うな! おまえがでかいんだから、見上げざるを得ないだろ!」  あっという間にいつもの調子を取り戻す如月に、群司は声をあげて笑った。 「すみません、失言でした。ところで琉生さんは、おいくつなんですか?」 「来年三十。いまは二十九!」 「じゃ、まだギリギリ俺とおなじ二十代ですね。因みに俺はまだ誕生日まえなんで、二十一ですけど」 「うるさいな、おまえだっていずれは三十になるし、おっさんにもなるんだよ! 若いからって自慢するな」  背中をベチンと叩かれてさらに笑う。笑いながらも、釈然としないなにかが胸の中で燻っていた。

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