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第11章 第1話(7)
「……っ」
「目が赤い。もしかして、洗面所で顔洗うつもりでした?」
「べつに、そんなんじゃ…っ」
「俺ね、最低なんです。兄貴が命懸けであなたに残したメッセージ、見つけなきゃよかったって思ってて。せめてあなたがいないときだったらよかったのに、とか、あの仕掛け、気づかないふりしとけばよかった、とかそんなことばっか考えてて。あり得ないですよね。自分がこんな人間だなんて思わなかった」
「ど、して、そんな……」
「どうして? なんでだと思います? 俺もさっきはじめて気がついて、結構混乱してるところなんですけど。こういうのいままで経験したことがなくて、自分でもどうしたらいいかわかんないっていうか」
「なに、言って……」
「ですよね。俺も自分でなに言ってんのかわかんないです。わかんないけど、あなたを俺のものにしたいって思ってることだけはたしか」
瞬間、掴んでいた手首がビクッとふるえた。
「俺が怖い? それとも気持ち悪い? 触られるのも嫌?」
「そんなこと言ってないっ。八神、おまえ今日、なんかおかしい。いつもと違う」
「そうだね、俺もそう思います。自分がこんなに嫉妬深くて、独占欲の塊みたいな奴だったなんて思ってもなかった」
「八神っ」
自分から逃れようとする如月を、群司はさらに強い力で引き戻す。
「あなたをだれにも渡したくない。ほかのだれにも――兄貴にもっ」
言うなり、如月の躰を腕の中に抱きこんで、力尽くでその口唇 を奪った。如月の双眸が大きく見開かれる。
「……っん、ヤッ……!」
群司の躰を押しのけ、顔を背けようとする顎を押さえて無理やり自分のほうへ向けさせ、群司はさらに深く口づけた。
強引に口唇を割って舌を潜りこませ、如月のそれを捕らえて絡ませる。直後、パンッという派手な音が鳴り響いて、群司はかすかによろめいた。
振り下ろした手を宙に浮かせたまま、如月が肩で息をする。左頬に痺れるような熱さを感じながら群司は茫然と立ち尽くし、やがて、手にしていたレジ袋を上がり口に置いた。
「すみません。帰ります」
口の中で呟いて、背を向ける。
如月の顔を、まともに見ることができなかった。
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