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第12章 第2話(1)

「え~と、いまさらですけど、連れて帰ってきちゃって大丈夫でした?」  マンションに到着して玄関に入った群司は、後ろからおとなしくついてきた如月を振り返った。如月は硬張った表情のまま、群司と目線を合わせることなく頷く。その様子を見て、群司は溜息をついた。 「あんなとこで、なにしてたんですか? あそこでたまたま俺が通りかかったからよかったですけど、そうじゃなかったら、あのまま店に連れこまれちゃってましたよ?」 「そんなことない。ちゃんと自分で対処できた」 「できたかもしれないけど、充分危なかったですよね? あんな時間にあんなとこ、ひとりでうろついちゃダメでしょ?」 「おまえだって人のこと言えないだろ」  不満そうに反論されて、群司はもどかしそうに頭を掻いた。 「いやまあ、それはそうなんですけど、俺の場合は連れこまれるってことはないんで」 「俺だってべつに、連れこまれてない」  如月はいくぶん、ふてくされたように言う。視線はずっと、逸らされたままだった。 「琉生さん、怒ってます?」 「……怒ってない」 「でも怒ってますよね? さっきから全然、俺の顔見てくれない」  群司が言うと、如月はますます頑なに顔を背けた。 「ほら、やっぱり怒ってる。まあ、余計なことしたし、それ以前に、ぶっとばされてもしょうがないことしでかしてるし……」  群司の呟きに、如月の躰がかすかにピクリと反応した。 「とりあえず部屋、入りましょうか。いつまでも玄関先で突っ立っててもあれなんで。っていうか、俺、このまま帰りますね。お邪魔する資格ないと思うんで」 「え?」  如月はそこで、はじめて群司の顔を見た。群司はそんな如月を、静かに見返す。 「やっと見てくれた。顔も見たくないほど嫌われたのかと思った」 「そんなこと……」 「また機会逃すとあれなんで、いまのうちに謝っておきますね。こないだはほんと、すみませんでした。ほんとはもっと早く謝りたかったんですけど、どんな顔して琉生さんに会えばいいのかわからなくて。謝って済む話じゃないし、(ゆる)されるようなことでもないのはわかってるんですけど。でも、決してふざけてとか、その場の勢いとかじゃないんで」  群司の顔をじっと見ていた如月は、やがて視線を落とすとすぐわきをすり抜けて家に上がった。 「入れ」 「え、でも……」  躊躇う群司の声を無視して、廊下の電気をつけると奥に入っていく。リビングの明かりが灯ったところで、群司も意を決して、お邪魔しますと靴を脱いだ。

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