132 / 234
第12章 第2話(1)
「え~と、いまさらですけど、連れて帰ってきちゃって大丈夫でした?」
マンションに到着して玄関に入った群司は、後ろからおとなしくついてきた如月を振り返った。如月は硬張った表情のまま、群司と目線を合わせることなく頷く。その様子を見て、群司は溜息をついた。
「あんなとこで、なにしてたんですか? あそこでたまたま俺が通りかかったからよかったですけど、そうじゃなかったら、あのまま店に連れこまれちゃってましたよ?」
「そんなことない。ちゃんと自分で対処できた」
「できたかもしれないけど、充分危なかったですよね? あんな時間にあんなとこ、ひとりでうろついちゃダメでしょ?」
「おまえだって人のこと言えないだろ」
不満そうに反論されて、群司はもどかしそうに頭を掻いた。
「いやまあ、それはそうなんですけど、俺の場合は連れこまれるってことはないんで」
「俺だってべつに、連れこまれてない」
如月はいくぶん、ふてくされたように言う。視線はずっと、逸らされたままだった。
「琉生さん、怒ってます?」
「……怒ってない」
「でも怒ってますよね? さっきから全然、俺の顔見てくれない」
群司が言うと、如月はますます頑なに顔を背けた。
「ほら、やっぱり怒ってる。まあ、余計なことしたし、それ以前に、ぶっとばされてもしょうがないことしでかしてるし……」
群司の呟きに、如月の躰がかすかにピクリと反応した。
「とりあえず部屋、入りましょうか。いつまでも玄関先で突っ立っててもあれなんで。っていうか、俺、このまま帰りますね。お邪魔する資格ないと思うんで」
「え?」
如月はそこで、はじめて群司の顔を見た。群司はそんな如月を、静かに見返す。
「やっと見てくれた。顔も見たくないほど嫌われたのかと思った」
「そんなこと……」
「また機会逃すとあれなんで、いまのうちに謝っておきますね。こないだはほんと、すみませんでした。ほんとはもっと早く謝りたかったんですけど、どんな顔して琉生さんに会えばいいのかわからなくて。謝って済む話じゃないし、恕 されるようなことでもないのはわかってるんですけど。でも、決してふざけてとか、その場の勢いとかじゃないんで」
群司の顔をじっと見ていた如月は、やがて視線を落とすとすぐわきをすり抜けて家に上がった。
「入れ」
「え、でも……」
躊躇う群司の声を無視して、廊下の電気をつけると奥に入っていく。リビングの明かりが灯ったところで、群司も意を決して、お邪魔しますと靴を脱いだ。
ともだちにシェアしよう!