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第12章 第2話(3)
「おまえはきっと、勘違いしてる」
如月は俯いたまま、呟くように言った。
「勘違い? 琉生さんに対する、この気持ちがってこと?」
群司の問いかけに、そうだと頷く。
「俺たちの置かれてる状況は特殊で、どうしても関係が密になりやすい。だから、そういうので気持ちも錯覚を起こしやすくなってるんだと思う」
「じゃあ、琉生さんの兄貴に対する気持ちも、勘違いで錯覚? 兄貴の琉生さんに対する気持ちも?」
「……そういう部分もあったと思う」
ふたりのあいだに沈黙が流れる。如月の顔をじっと見ていた群司は、やがて小さく息をついた。
「いいんじゃないかな、それでも」
色素の薄い双眸が、驚いたように群司をとらえた。
「勘違いでも錯覚でも、いいと思いますよ? 最初はそうだったとしても、最後に本物になればいいわけでしょう?」
「それは……」
「正直俺は、恋愛感情なんて多かれ少なかれ、そういう部分があるんじゃないかって思ってますけど」
群司はそう言って苦笑した。
「少なくとも俺が琉生さんに感じてる気持ちは嘘じゃない。琉生さんと一緒にいられると嬉しいし、離れてるとどうしてるかなっていつも気になる。そばにいれば触れたくなるし、ほかの男に――たとえそれが兄貴であったとしても、あなたの気持ちが向いてたら、俺のほうを向いてほしくてたまらなくなる。男としても、それ以外の面でも兄貴には太刀打ちできないってわかってるのに」
「八神……」
「好きじゃなかったら、同性にキスしたいなんて思わない」
戸惑いを浮かべる如月の顔を見て、群司は困ったように笑った。
「ど、して……そこまで……」
「俺にもわかんないです」
言って、お手上げというように両手をひろげた。
「でもね、たぶん琉生さんがいろんなものを抱えながら、ひとりで頑張ってる姿に惹かれたんだと思う」
「でもおまえは、ゲイじゃない」
「そうなのかな。たしかにいままで付き合ってきたのはみんな異性で、同性をそういう対象として見たことは一度もなかったけど、琉生さんを男とわかったうえでそれでも好きなら、その時点でそういうこだわりなんてどうでもいいのかなって思うけど」
「抵抗、ないのか?」
「ないですね、全然」
群司はあっけらかんと答えた。
「ただ俺の場合、琉生さん限定になるんで、セクシャリティの問題に関してはなんとも言いがたいですけど」
「俺限定……」
「そ、琉生さん限定。俺、琉生さんなら普通に抱けますよ? それ以外で男相手だったらまず無理ですけどね。っていうか、そもそも琉生さんってどっち? 抱く側? 抱かれる側? 俺は男なんで、普通に抱く側で想定しちゃいましたけど」
「そっ……」
真顔で訊かれるとは思っていなかったのだろう。一瞬絶句した如月は、直後に首筋まで赤くなって横を向いた。
「そういう質問には答えないっ」
言ったあとで、逃げるようにソファーに移動して群司からいちばん離れた位置に座った。群司は、え~っと残念そうにぼやきつつ、クスクスと笑う。如月は居心地が悪そうに群司から顔を背けた。
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