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第12章 第2話(6)
「解析作業って、あのあと進んでます?」
群司が尋ねると、如月はうんと頷いてから、すぐに首を横に振った。
「すみません。俺がサボってたせいですね。これからちゃんと、遅れを取り戻すよう頑張りますんで」
「べつにおまえのせいじゃない。もともと俺の仕事だから」
「そうですけど、でも、そのうえで手伝わせてほしいって頼んだのは俺のほうですからね。ちゃんと責任は果たさないと」
「もう充分やってくれてる」
「まだまだですよ。琉生さんが安心して寄りかかれるくらいにならないと」
「こ、子供じゃないから、そういうのは必要ないっ」
「子供じゃなくたって、だれかに甘えていいんですよ? 我儘言って、弱いところを見せて、疲れたら思いっきり寄りかかって。じゃないと、いつか限界が来ますよ? 琉生さん、そういうの苦手そうだから、いまのうちに練習しておいたほうがいいんじゃないですか?」
「練習?」
「そ。甘える練習。俺、協力しますけど?」
言って、思わせぶりに両手をひろげた途端、如月の頬に朱がのぼった。
「だ、だからそういうのはいらないっ」
勢いよくソファーから立ち上がった如月は、その場を離れようとして足もとにあったコンビニのレジ袋で足を滑らせた。
「危ないっ」
大きくバランスを崩した如月に、群司は咄嗟に腰を浮かせて腕を伸ばすと倒れこんできた躰を受け止めた。そのまま自分のほうへ引き寄せ、腕の中に抱きこみながらソファーに沈む。それからホッと息をついた。
「ね? たまには支えも必要でしょう?」
ソファーから滑り落ちないように、あらためてしっかりと抱えなおしながらくすりと笑うと、群司にしがみついていた如月の耳が赤くなった。足を滑らせた余韻か、密着した胸の奥で心臓が早鐘を打っていた。
「琉生さん、やっぱり細いですね。ちゃんと食事してました?」
群司の問いかけに、如月はゆっくりと身を起こしながら頷いた。
「してた。食べないと、おまえがうるさいから」
「えらいですね。小姑みたいに口うるさくした甲斐があったかな」
如月が立ち上がったタイミングで、群司もソファーから身を起こす。
「でもきっと、コンビニ弁当とかスーパーの惣菜とか、出来合いものばっかりでしょう。今日はひさしぶりに、なにか作りましょうか」
言いながら立ち上がった。
「なにか食べたいもの、あります?」
如月は少し考えると、ごまだれの冷やし中華と答えた。
「了解です。じゃ、スーパーに買い出しに行ってきますね」
踵を返しかけて、ふと振り返る。
「一緒に行きます?」
返事を期待していたわけではなかったのだが、驚いたことに如月は行く、と了承する。
一瞬目を瞠った群司は、直後に破顔して、それじゃあ行きましょうかと手を差し出した。途端に睨まれる。
「調子に乗るな」
「やっぱダメか」
群司は残念と苦笑を閃かせた。どこまで受け容れてくれているのかわからないが、少なくとも如月にとって、自分の存在は邪魔にはなっていないようだと安堵した。
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