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第13章 第2話(2)
他愛ないやりとりのあと、群司は大きく伸びをしてそのまま傍らにいる如月の手首を掴んだ。
「少し休憩」
言いながら、敷いてあるラグマットに寝っ転がる際に如月も道連れにする。「わっ」と小さな声をあげた如月は、群司の胸のうえに倒れこんだ。
『仲直り』以降、スキンシップ過多になりつつある群司にだいぶ慣れてきたのか、背中に腕をまわしても、如月は嫌がる様子もなくじっとしていた。しばしひろい胸に身を預け、心臓の音に耳をすませた後に囁くような声で言う。
「……行くのか? パーティー」
できれば断ってほしい。そんな思いが伝わってくるような尋ねかただった。
群司は肉の薄い背中をあやすように撫でながら、もちろんと頷いた。
「行きますよ。だってこんな機会、逃せないでしょう?」
「でも……」
如月は頭を上げて群司の顔を見た。
「琉生さんだって、行くでしょう?」
「……行く」
ほらね、と群司は口許に笑みを刷いた。
「向こうからわざわざ指名してくれたからには、断る理由はないですよね? おそらく出席者のほとんどが使用者リストに名前のある連中で間違いないと思う。そんなところに招いてもらえるなら、これほどの好機はない」
「だけど絶対、裏になにかあると思う」
「まあ、そうでしょうね。でなきゃ琉生さんはともかく、内定が出たばかりの俺まで招待されるはずがない。そこまでわかってるなら、飛びこんでみるしかないんじゃないですか?」
群司が言うと、如月はキュッと口唇を噛みしめてふたたび胸のうえに顔を伏せた。
「なに? めずらしいですね。甘えたくなった?」
如月の手が、胸もとの服を握りしめる。群司は背中に置いていた手を移動させて、明るい色合いの髪を梳き上げるように撫でた。
「大丈夫、俺は兄貴のぶんまで長生きするって決めてるから。だから琉生さんも、これからもずっとそばにいるって約束して?」
どこまで理解しているのかわからないが、如月は無言のまま頷いた。
「昨日ね、新宿署の大島さんから連絡がありました。追っていた藤川の足取り、松濤 のあたりで消えたことまでは確認できたそうです」
如月の躰が、途端にかすかに硬張った。
「偶然かもしれないけど、偶然じゃないかもしれない。人目が多くある会場でどこまでやれるかわからないけど、やれるだけのことはやってみましょう」
群司の言葉に、如月はもう一度頷いた。
都内屈指の高級住宅街で足取りの消えた藤川。そこにはなにか、意味があるのか。
いずれにせよ、賽はすでに投げられている。兄が命懸けで残したデータで、必ず真相を暴いてみせるとあらためて心に誓った。そして如月のことも、この手で守り抜いてみせると。
なにか考えごとをしているのか、如月はなおも群司の腕の中にじっとおさまっていた。その重みを心地よく感じながら、群司は己が為すべきことに思いを馳せた。
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