兄が残したデータの解析作業が終了したのは、十月に入ってまもなくのことだった。 　予想したとおり、データの内容はまだ途中で、これからさらに調査を進めていくつもりだったのだろう。それでも充分、如月や群司が調べた内容を補足し、さらには、その道のプロである如月をもってしてもまだ手をつけられずにいた裏社会の動きなどを知る手立てとなった。 　おそらくいちばん肝腎な情報は、あの動画の中で語られている。最後の、雑音に掻き消され、あるいは兄の声が掠れて言葉にならなかった部分。 　兄が入手した最新の情報で、なおかつ、もっとも重要な真相が含まれていたからこそ、兄はその内容をデータ化する間もなく消される羽目になったのだ。 　あの部分を解明することさえできれば、より真相に近づくことができるはずだった。 「ありがとう。おまえのおかげでここまで来ることができた」 　解析済みのファイル一覧を眺めて、如月は感慨深げに感謝の言葉を口にした。 「いいえ、俺はなにも。琉生さんが積み重ねてきたものに、ほんの少し手を貸しただけですから。俺がいなくても、あなたなら自力でやり遂げられたはずです」 「そんなことない」 　言って、如月は群司を顧みた。 「俺ひとりだったら、こんなに早くできなかった。それに、優悟さんのあの動画だって、最後まで見つけられなかったかもしれない」 「いいえ、あなたなら必ず見つけ出したはずです」 　群司は断言した。 「ほかのだれにわからなくとも、兄貴はあなただけにわかる仕掛けをしていた。あなたにそれが、わからないはずはない」 　そうでしょう？と同意を求めると、如月は口唇を噛みしめて俯いた。そんな如月を見ていると、たまらない気持ちになる。 「ああ、もうっ」 　もどかしげに言い放った群司は、そらぞらしいほど明るく「ダメだなぁ」と文句を言いながら如月の躰を引き寄せた。 「琉生さん、兄貴のことになるとほんと泣き虫になるね」 　抵抗する隙を与えず、背中に両腕をまわして抱きしめる。 「ちょっ、八神っ」 「兄貴もさぁ、こんなに大事に想ってた人、泣かせるような真似すんなっての。男としていちばん失格じゃないですか、そういうの」 「八神、離せ。おまえ最近ベタベタしすぎ。俺はべつに泣いてないっ」 「そう？　でも寂しいでしょ？」 「そんなこと……」 「俺は寂しい」 　不意に、ふざけたトーンから真剣な口調に変わる。群司の拘束から逃れようともがいていた如月の動きがピタリと止まった。