144 / 234

第13章 第3話(2)

「べつにブラコンってわけじゃないし、年が十コも離れてると一緒に住んでたときだって生活の時間帯はほとんど合わなかったんですけどね」  如月の躰を抱きしめながら、群司は独り言でも呟くように話しつづけた。 「兄貴が大学卒業して、警察学校に入るタイミングで親が離婚して、家出てからはなおのこと会う機会もなくなったし。兄貴は秋川のままで俺は八神になって。会うのは年にせいぜい一度か二度。なんか他人より遠い存在に思えたこともあったけど、血の繋がりって不思議なもので、そういう状態でも全然気にならないんですよね。元気でやってるっていうそれだけで安心してたのかな」 「八神……」  顔を上げた如月は、群司をじっと見つめた。 「年末年始に休みが取れればフラッと顔を見せに来て、あとは忘れたころに『元気か?』みたいな連絡が入ることがあったり。それでも全然、会いたいとか寂しいなんて思ったこともなかったのに、いまは無性に会いたいし、もう会えないんだなって実感するたびに寂しくてたまらなくなる。なんだろうね、いるのが当たり前すぎて、兄貴の存在が自分の中でどれだけ大きかったか、気づけなかったのかな」  白い指先が伸びてきて、頬にそっと触れる。群司はその掌に頬を擦り寄せ、顔の角度をわずかに傾けて口づけた。  ビクッとふるえた手が引っこみかけるのを、逃さないようにやわらかく捕らえて握りしめる。 「ここまで来れたのは、むしろ琉生さんのおかげ。琉生さんがいてくれたから俺は頑張れたし、精神的にもまえを向くことができた。って言っても、まだなにもはじまってないし、ここからが正念場なんですけどね」  穏やかに笑いかけると、如月の顔に不安の色がよぎった。これからのことと、生命を奪われた優悟のことが思い起こされたのだろう。 「大丈夫。俺はあなたをひとりにはしないから」 「でも……」 「約束します。俺はあなたを置いて、どこにも行かない。だからこれからも、そばにいていいですか?」  群司の顔をしばし見つめていた如月は、やがてゆっくりと頷いた。

ともだちにシェアしよう!