148 / 234

第13章 第4話(2)

「え? 俺なんか、気に障ることしました?」  さらに群司が間合いを詰めると、アームレストギリギリまで追いこまれた如月は、それ以上身動きが取れなくなって縮こまった。 「し、してない。なにも。部屋、が……」 「部屋?」  スーツの上着を脱いだ、ワイシャツ姿の肩に手をまわすとビクッとふるえる。 「部屋が、きれいだから……」  いったいなんのことかと首をかしげかけた群司は、すぐにその意図を察してなんだと笑った。 「先週は何度か足を運んだんですけど、今週は一度も来てなかったですからね。っていうか、普通に通ってたときも、ちゃんときれいにして帰ってたでしょ?」 「そう、だけど、なんかちょっと、いつもと違う」 「まあ、出入りしてなかったから、生活感が消えてたのかもしれないですね」  言いながら、白い頬を指先でスルリと撫でる。その感触に怯えるように、如月はギュッと目を瞑って首を竦めた。 「いつもと違うって、それ、部屋のことだけ?」  思わせぶりに顔を覗きこむと、それ以上は耐えられなくなったのか、如月は群司の胸を押し返して思いっきり遠ざけた。 「いま、そんなこと言ってる場合じゃないっ」  最初にそういう話の流れに持っていったのは如月のほうなのだが、さすがにこれ以上しつこくかまうと怒り出しかねない。群司は諸手(もろて)を挙げて降参した。 「すみません、今日の段取りについてですよね」  群司がいつもの調子に戻すと、如月はホッとしたように緊張を解いた。 「と言っても、音声分析の結果も上がってこなかったんで、とりあえず今日できるのは、出席者の顔触れを確認して、使用者リストと擦り合わせるくらいですかね」 「おそらく天城顧問を通じて、そのうちの何人かと面識を得ることになると思う」 「当然、そうなるでしょうね」  群司も同意した。 「まあ、適当に話を盛り上げて、今後に繋げられるよう自分を売りこんでおきます」  フェリス使用者との直接の繋がりができれば、情報も得やすくなる。 「それが天城側の思惑でもある。あまりやりすぎなくていい」  釘を差す如月に、群司は了解ですと応じた。

ともだちにシェアしよう!