149 / 234

第13章 第4話(3)

「それで、音声分析の結果のかわりっていうわけじゃないんですけど」  言いながら、群司は上着のポケットからあるものを取り出した。チャック付きのビニール袋の中に、入浴剤かフレーバーティーの個包装を思わせる包みがいくつか入っていた。 「これは?」 「市場に出まわってる、廉価版のフェリスです」  群司の答えを聞いた途端、くっきりとした二重の双眸が大きく見開かれた。 「……え、なに? なんで……」 「これが今週、ここに来てなかった理由」  ローテーブルに置かれた物を凝視する如月に、群司は説明した。 「ここ二週間ほど、歌舞伎町のバーで飲み歩いて手に入れました」 「え、飲み歩いてって……」 「兄貴の残してくれた情報をもとに、ある程度店を絞り込むことはできましたからね。そこで連日飲み歩いてるうちにいろいろ声かけられて、その中のひとりから入手しました」 「ど、やって……」 「ちょっとチャラいカッコしてひとりで暗く飲んでると、見かけない人間ってこともあって、バーテンとかすぐ隣で飲んでる客なんかが声をかけてくるんですよね。それで世間話しながら軽く愚痴るんです。学校生活がつまらない。就活がうまく行かない。付き合ってたカノジョがほかに男作ってて、ふた股の末に乗り換えられた、みたいに。で、俺の人生ってなんなんだろうって少し自棄(やけ)になったふりして嘆いてると、相談に乗ってくれたり同情してくれたりするんで最後にこう言うんです。元カノ見返してやったり、面接や採用試験でビシッとキメられる特効薬でもあればいいのにって」  群司の説明を聞くうちに、如月の表情が硬張っていった。 「……それで、これを?」 「そんなに思い悩んでるんだったら、いいのがあるぞって持ちかけられて」  群司は思わせぶりに口の端を上げた。 「ひと包み五千円。通いはじめて八日目にひとつ入手。買ったのは常連客のひとりからですけど、おそらく店とはグルなんじゃないかな。で、その三日後にふたつめ。昨日の夜二種類ひと袋ずつでで計四つ。種類は三種類。量としては微妙ですけど、とりあえずこれだけあれば――」 「バカッ!」  突然怒鳴られて、群司は目を瞠った。 「なんでそんな危ないことっ。自分がなにしたのかわかってるのかっ!?」 「もちろんわかってますよ。けど、現物は必要でしょう?」 「俺はそんなこと頼んでないし、おまえからもなにも聞いてないっ」 「そりゃ言いませんよ。言ったら琉生さん、反対するでしょう?」 「あたりまえだ! 知ってたら絶対こんなことさせなかったっ」 「だからですよ」  群司は肩を竦めた。 「これはあくまで俺の独断でしたことです。それでなにか問題が生じたら、責任は全部俺が取りますんで」 「そんな問題じゃないっ!!」  如月はかつてないほど感情を剥き出しにして声を荒らげた。

ともだちにシェアしよう!