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第13章 第4話(4)
「おまえはわかってない。なんにもわかってないっ。そんな危ない場所に出入りして、顔まで憶えられて、それがどんなことになるのかっ。もしこんなものを持ち歩いてるさなかに職質かけられて所持品検査でもされてみろ。問答無用で罪に問われるんだぞ!? おまえの人生、メチャクチャじゃないかっ。それ以前に双龍会の連中に目をつけられてたら……っ」
「琉生さん、琉生さん落ち着いて。ごめん、勝手なことして。でも俺――いてっ」
なだめようとした群司の胸を、如月は力任せに拳で叩いた。
「ちょっ、琉生さん、頼むから落ち着いて。俺の話、もう少しだけ聞いて? 俺、考えなしに無謀な真似したわけじゃなくて――」
「うるさい、バカ!」
興奮した如月は、何度も群司の胸を叩きつづけた。
「おまえになんかあったら優悟さんに顔向けできないじゃないかっ。親御さんにもなんて言えばいいんだよっ。おまえになんかあったら、俺は――俺は……っ」
その瞳から、ぽろりと涙が零れ落ちる。ハッとした如月は、耐えかねたように立ち上がると隣の寝室に駆けこんだ。
「琉生さん!」
群司の呼びかけも虚しく、勢いよく扉が閉ざされる。群司は茫然と扉を見つめた。
こんなふうに心配をかけ、不安にさせて泣かせるつもりはなかったのだが、結果として最悪のタイミングで悪手を打ったことになる。
いったいなにをやっているのかと情けなくなった。
深々と息をついた群司は、乱暴に頭を掻くと意を決したように立ち上がった。
「琉生さん、ごめん。謝るから機嫌直して?」
寝室につづくドアをノックしながら静かに声をかけるが、中から返事はない。
「ちゃんと話がしたいから、入ってもいいですか? 開けるよ?」
しばし間合いをとってから、ゆっくりとドアを開ける。如月は、奥の窓ぎわに立ってこちらに背を向けていた。
「その、ほんとにすみませんでした。こんなに心配させるなんて思ってなくて」
群司が声をかけても、如月は頑なに背を向けたまま黙りこくっている。群司はその背後に静かに歩み寄った。
「弁解するわけじゃないけど、自分なりに考えて、これが最善だと思ったんです。マージナル・プロジェクトのメンバーとはいえ、琉生さんは直接フェリスの精製に関わることができない立場でしょう? ならば質を落とした廉価版であっても、現物を手に入れておいたほうがいいんじゃないかって思って」
いざというときの物証にもなるし、成分分析を行うことで、よりくわしい情報を得ることもできる。入手経路を実際に把握しておけば、それだけ捜査の手も伸ばしやすくなる。
「自分ではあまり焦ってるつもりはなかったんですけど、ほんとは結構焦ってたのかも。実際の使用者にかぎらず、樋口エリナみたいな症例もあることがわかってきましたし、廉価版が市場に出まわってるならなおのこと、それが今後人類社会にもたらす影響ははかりしれない。今日の創立記念パーティーでそれなりの情報を掴むためにも、こっちもある程度の下準備はしておかなきゃって、そう思って」
静まりかえった部屋に、群司の声だけが響く。如月はピクリとも動かなかった。
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