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第13章 第4話(6)
細い腰を引き寄せて口唇を重ね、角度を変えながらやわらかな感触を堪能する。薄く開いた口から舌を差しこんで絡めるうちに膝の力が抜けてきたのか、如月は自分から群司に縋りついてきた。
仲直りのキスのはずが、次第に熱を帯び、ようやく口唇を離したときには如月の表情はとろとろにとけていた。
「琉生さん、可愛い。あんまり無防備だと俺の理性が保たないんで、気をつけてくださいね」
「気を、つける?」
「このまま襲っちゃうかもってことです」
冗談めかした口調で言って、抱擁を解こうとしたところで如月から身を寄せてきた。
「えっ、ちょっ……、これ以上はほんとにヤバいんでっ」
思わず本気で焦ると、如月はさらに寄ってくる。さすがにこの展開は想定していなかったので、群司のほうが狼狽えた。
「ちょっ、琉生さんっ。俺マジでヤバいって」
「い、から」
「え……、いいって、まさか……」
及び腰になる群司に向かって、如月はキスをねだるように目線を伏せて顔を仰のかせた。これで踏みとどまれるほど群司も人間ができていない。如月の躰を再度抱き竦めると、覆いかぶさるように薄く開いた口唇を奪った。
「……んっ…ふ……ん……っん……」
如月の口から漏れる吐息に官能を刺激されながら、濃厚な口づけを交わしつつ傍らのベッドに誘導して押し倒す。如月の躰を跨ぐように膝立ちになった群司は、手早くスーツの上着を脱ぎ捨て、ネクタイの結び目に乱暴に指を突っこんで襟もとをゆるめた。
「琉生さん、今日ここで顔合わせてからずっと、俺のことメチャクチャ意識してたでしょ」
ほどいたネクタイを床に落とし、ワイシャツのボタンもはずしていくと、口づけの余韻に軽く息を喘がせていた如月の顔が羞恥に染まった。
「俺のスーツ姿、そんなに新鮮だった?」
「み、見慣れてない、から……」
「うん、見慣れてないから?」
シャツも脱ぎ捨てて上半身裸になると、如月の顔の両わきに手をついて真上から見下ろす。自分から誘っておきながら、如月はいまさらのように顔を背けて片腕で赤くなった頬を隠した。
「知らない人、みたいで……」
「それで意識しちゃった? いつもと違う感じがして」
リビングのソファーで聞いた言葉をそのまま繰り返すと、如月はますます赤くなっていたたまれなさそうに横を向いた。群司はその手を取って、ゆっくりと顔の上からはずさせる。
「大丈夫。来年社会人になったら、嫌でも見慣れてすぐになにも感じなくなるから」
白い頬にチュッと音を立てて口づけた途端、如月は首を竦めてビクッとなった。その反応に、苦笑が漏れた。
「琉生さんって、大胆なのか初心 なのかわからないね」
言いながらも、いつもの如月に戻ったことに内心で安堵した。
「最後にもう一度確認しますけど、このままつづけちゃっていいんですか? 俺、途中で止められる自信ないですけど。後悔しない?」
本当に一線を越えてしまっていいのかと尋ねる群司を見上げた如月は、迷いのない表情ではっきりと頷いた。
「しない。おまえが嫌じゃなければ」
その答えに、笑みが漏れる。
「嫌なわけ、ないじゃん」
思わせぶりに下肢を擦りつけると、如月は羞恥と怯え、期待の交じった顔でかすかに声をあげた。そんな反応すらも愛しくてたまらず、群司は如月の指に自分の指を絡めて握りしめる。
「好きだよ、琉生さん」
情慾の滲む囁きに、如月はやわらかな笑みと甘い吐息で答えた。
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