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第14章 第3話(3)

「あの、お休みの日に大変申し訳ないんですが、その解析結果、俺も確認することできるでしょうか? できればいまからそちらに伺いたいんですが」  群司が尋ねると、それならばと池畑から別の提案を持ちかけてきた。 『本来こういう対応のしかたはしていないんですが、こちらのメールアドレス宛に空メールを送ってもらえれば、音声データだけでもお送りしますよ。緊急を要する事態のようなので、今回だけは特別に』 「本当ですか? 助かります」  即座に池畑の申し出を受け入れ、一度通話を切った群司は池畑音響研究所のアドレス宛にメールを送信した。すぐに確認してくれただろう池畑から、間を置かず返信が来る。そこに添付されていたファイルを事前に電話口で教えられていたパスコードを使って開いた。  解析処理済みのデータを再生して内容を確認する。一度目の再生で、元データでは不明瞭だった部分をはっきりと聴き取ることができた。そしてその瞬間、顔色が変わるのが自分でもわかった。  ようやく判明した、兄のつきとめた『真相』――  それは、群司の想像の域を遙かに超えていた。  無意識のうちに心拍数が上がり、手に汗が滲む。こんなことが、現実にあり得るのだろうか……。  三度聴きなおして聴き取った内容に誤りがないことをたしかめた群司は、一度小さく息をついて呼吸を整え、気持ちを鎮めてからふたたび池畑に電話をかけた。 「送っていただいたデータ、内容を確認しました。本当に助かりました。ありがとうございました」  心を込めて礼を言うと、池畑は「いやいや」と穏やかに応じた。 『お役に立てたならよかった。もっと早く処理できていたらよかったんですが』  遅くなって申し訳ないとの謝罪に群司はとんでもないと返した。 「お忙しいのにご無理を言って、こちらこそすみません。後日あらためてご挨拶に伺いますので」 『気にしないでください。仕事ですから。解析結果をまとめた書類とお預かりしているデータは、ご都合のいいときに取りにきていただければ結構です』 「あの、特例で対応していただきましたし、そのぶんの割り増し料、請求金額に上乗せしていただいてかまいませんので」 『いいんですよ、あくまで私の判断でしたことですから。普通の依頼ならここまではしません。ここだけの話、君がいま、なにをしているか理解していればこその協力です。なにより、大島さんにもくれぐれもよろしく頼むと言われてますからね』 「え?」 『おっと、余計な口を滑らせたかな。まあいいや、これもここだけの話ということで。大島さん、君のお兄さんと同期だったそうですよ』  その言葉に、群司は愕然とした。  池畑はうっかり口を滑らせたと言っていたが、おそらくそうではない。わざとその情報を群司の耳に入れたのだ。理解したところで、群司の肚は決まった。 「あの、池畑所長、面倒をおかけしたついでに、もうひとつだけお願いしてもいいですか」  電話口で群司は用件を伝える。如月の気持ちを無視しての独断となるが、自分の判断に間違いはないと確信していた。

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