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第15章 第1話(2)

「早乙女くんから用事があるって聞いてたから、今日は来られないのかと思ってたわ」 「とんでもない。またとない機会ですから、必ず出席させていただくつもりでした。本当なら、オープニングセレモニーから出席させていただく予定だったんですけど」  周到な手回しに、してやられたという思いを強めつつ、群司は表面上、殊勝な態度で恐縮して見せた。 「いいのよ、まだ料理もたくさんあるし、今日は存分に楽しんでいってね」 「ありがとうございます。それでその、早乙女さんは」 「ああ、彼ならさっきまでここにいたのだけれど、いまは別室で休んでもらっているの」 「え?」 「急に顔色が悪くなって、気分が悪そうだったから」  一瞬、自分が無理をさせてしまったせいだろうかと焦りをおぼえたが、そうではないことにすぐに気づく。自分を見つめる天城瑠唯の眼差しに、なにかしら含むものが感じられたからだ。 「別室ってどこですか? できれば様子を見てきたいんですが」 「あら、随分心配性なのね。大丈夫よ。なにかあったらうちの主治医がきちんと対応するから」  天城瑠唯は軽やかに笑った。 「それにしても、ふたりはいつのまにそんなに親しくなったのかしら。お互いに連絡を取り合ったり、相手の体調を気遣ったり。知らないうちに、すっかり仲良しなのね」 「あ、いや、そんなことは……」  笑顔の裏で探りを入れられているような気がして、それ以上はなにも言えなくなった。 「それより八神くん、あなた、いま来たばかりなのでしょう? あと一時間ほどしたら特別なイベントを予定しているの。今日お招きしたお客様の中でも、一部の方のみを対象にご用意した、はじめての試みになるのよ。よかったらあなたも、参加していってね?」  話題が変わったことにホッとしながらも、その内容にあらたな緊張をおぼえる。 「いいんですか? 俺なんかが参加させてもらって」 「もちろんよ。そのために招待したんだから」  天城瑠唯は通りかかったボーイからシャンパングラスをふたつ受け取ると、ひとつを群司に差し出した。 「天城顧問、お身体の調子は」 「そうね、おかげさまでとてもいいわ。楽しみにしていたせいか、今日はとりわけ気分もいいの」  にこやかに言って、受け取った群司のグラスに自分のグラスの縁を軽く合わせる。若く、張りのある肌。女性ならではのやわらかな曲線を描く肢体。そこに、病気の影は見当たらず、どれほど注意を払っても、不自然なところは見受けられなかった。それがなおのこと、群司には不気味に思えた。

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