165 / 234
第15章 第1話(5)
ホールを抜け、中央階段のわきを通って人気の少ないほうへと進む。あきらかに私的領域に繋がるとわかる扉のまえで一度足を止め、周囲にだれもいないことを確認してからそっとドアを開けた。だれかに見咎められれば、トイレを探しているふりでもすればいい。
スルリと躰を滑りこませて中に入ると、屋敷の規模を窺わせる絨毯敷きの廊下が前方に伸びていた。招待客で賑わうパーティー会場とは打って変わり、静寂に包まれた空間がひろがる。
様子を窺いながら進んで行くうちに、ちょうど廊下が折れ曲がる手前の部屋から話し声が漏れてきた。近づくと、ドアがわずかに開いていた。
「この大事なときに、いったいなにをやっている! うっかり目を離した隙に逃げられたで済む話か!」
壁に身を寄せて聞き耳を立てると、中から押し殺した叱責の声が聞こえてきた。声を荒らげているのは天城瑠唯だった。口調も態度も、普段の人前での振る舞いとはまるで異なっているが、おそらくこちらが本来の姿なのだろう。
「いいか、敷地の外へは絶対出すなよ? それ以前に、客の目にも決して触れさせるな。ショウはもう目前に控えている。なにがなんでも見つけ出して連れ戻せ。おまえたちの処遇は、その結果次第で考えることにする」
もらっている給料に見合った働きをしろという傲慢このうえない言葉まで耳にしたところで、群司はその場から離れた。中にいる者たちが、いつ部屋から出てきてもおかしくない雰囲気だったからだ。天城邸で働く使用人たちとばったり出くわすことにでもなれば、なおさら面倒である。確認すべきことは、いまの短い会話の中で充分確認が取れた。長居は無用だった。こんなところまで入りこんで会話を立ち聞きしていたことがバレては元も子もない。
だれにも見咎められることなくパーティー会場まで戻った群司は小さく息をついた。それからあらためて、人目につかない場所まで移動する。玄関ホール正面にある中央階段わきの、少し奥に引っこんだスペース。そこで、先程マイクを向けてきた男がポケットに忍ばせたものをさりげなく確認した。百円硬貨くらいの大きさの、ボタン状のもの。おそらく発信器か盗聴器の類いであろうと思われた。
ともだちにシェアしよう!