ふと顔を上げてホールのほうを見やる。そこにくだんのテレビクルーらしき集団は見当たらなかったが、秘密裡にこれを渡された理由はわかる気がした。 　おそらく天城瑠唯の言っていた『ショウ』というのが、このあと予定されている、招待客の一部だけを対象とした特別なイベントのことなのだろう。そこであきらかに、倫理規定に抵触するなにかが行われようとしている。報道陣に扮してパーティー会場に潜りこんだ彼らは、そのことをすでに把握しているのだ。 　盗撮防止のためか、招待客の携帯は入り口で没収されている。多くのマスコミが訪れている中でそれもまたおかしな話だが、そちらについては、あらかじめ主催者側との取り決めが為されているのだろう。あくまで、それ以外でのプライバシー保護という名目で、出席者は全員、番号付きの袋に携帯を入れて係に預け、おなじ番号の書かれたプレートを渡されていた。マスコミを装い、インタビューにかこつけて渡されたそれは、そんな連絡手段がない状況下で万一に備えるための対応策。おそらくはそういうことなのだと推察した。 　如月はいま、どこにいるのだろう。『ショウ』を目前に逃げたのは、人なのか、動物なのか。見つかって連れ戻された場合、どんな出来事が待ち受けているのだろう。 　それが如月ではないことを祈りつつ、いざというときにはなにがなんでも救出してみせると決意する。どこかで落とすことがないよう、小型の精密機器は胸もとの内ポケットにしまいなおした。 「八神くん、こんなところにいたのね」 　そのタイミングで背後から声をかけられた。内心で身構えながらも、群司は平静を装って振り返った。 「天城顧問。ご用はもう、お済みですか？」 　愛想よく尋ねた群司に、天城瑠唯もまたにこやかに応じた。 「大丈夫よ、たいしたことじゃなかったの。ごめんなさいね、急に席をはずしたりして」 　先程とは打って変わって、穏やかな口調で言う。黒服の男たちに対していた人間と、同一人物とは思えない豹変ぶりだった。 「いえ、主催する側だと大変ですね。お邪魔しておいてなんですけど、個人宅でこれほどの規模のパーティーが開かれるなんて想像もしてませんでした」 「日頃からおつき合いのある方がたくさんいらっしゃるから、お得意様だけのつもりでも盛況になってしまうのよね。ありがたいことなのだけれど」 　それだけみずから進んで、フェリスの餌食になっている人間がいるということだろう。いまは廉価版も出まわっているのだから、実際の使用人数は想像もつかない。しかも日本のみならず、世界規模での話なのだ。