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第15章 第1話(7)

「あなたはここで、なにをしていたの? 戻ったら姿が見えないのだもの。知らない人たちの中に置き去りにして、心細い思いをさせちゃったかしら」 「そうですね。こう見えて人見知りなんです」  冗談めかした口調で言われて、群司も茶目っ気たっぷりに切り返す。互いに本心を偽ってのやりとりとはだれも思うまい。 「あなたを紹介してほしいという方が何人かいらっしゃるのだけど、もう、あまりそういう気分ではない?」 「いいえ、そんなことはないです。熱気がすごかったので、少し冷ましていただけですから」 「そう?」  天城瑠唯は小首をかしげた。 「でもそうね、もう充分いろいろな方にご紹介したから、あまり一度にたくさんだと大変かもしれないわね。今日はこの辺にしておきましょうか。あなたも気疲れしてしまうでしょう?」  さもいたわるように言う。 「あの、でも失礼になりませんか? せっかく先方から指名していただいたのに」  できればひとりでも多くの面識を得て、言葉を交わしておきたいところである。だが、天城瑠唯は気にする必要はないとおおらかに応じた。 「また次の機会があるから大丈夫。あと半年もすれば、あなたはプロジェクトの一員になるのだもの」  それ以外の可能性については微塵も疑っていないと言いたげな、自信に溢れた口調だった。 「それに、例のイベントもそろそろはじまる時間だし、あなたにはそちらのほうがずっと重要で有意義なものになるはずよ」  もちろんそれは、群司とて承知している。そこでなにが起こるのか、この目で見届けなければならない。 「どんな催しなのか、教えてもらうことはできますか?」 「あらダメよ。いまここで教えちゃったら、楽しみが半減しちゃうでしょう?」  見てのお楽しみだと、天城瑠唯は心底楽しそうに笑った。 「さあ、行きましょう。イベントに出席される方は、そろそろ移動をはじめてるから」 「あの、そのイベントに早乙女さんは」 「そうね、体調に問題がなければ参加してもらうわ。係の者がちゃんと確認するから大丈夫」  群司をうながして歩き出す天城瑠唯の口許に笑みが浮かぶ。その微笑を、群司は死に神か悪魔のようだと思った。

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