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第15章 第2話(1)

 イベントが行われるという会場は、屋敷の裏手にある別棟に用意されていた。  別棟といっても本邸とは渡り廊下で繋がっており、建物それ自体も、一般住宅のそれと比較してかなり豪邸の部類に属す規模だった。本邸が城なら別棟は離宮といったところか。  招かれているのは、三十名ほど。本邸のパーティー会場には、二、三百名ほどが集まっていたようだから、そのうちの一割程度が招かれたことになる。  その建物が本邸と別に設けられていた理由は、中に入ってすぐに理解した。内部は、手前がロビーになっており、その向こう、両開きの扉を抜けた先の空間は、正面中央の奥に向かって階段状に掘り下げるかたちで座席が設けられた、映画館か小劇場のような造りになっていた。  座席の先にあるのは、舞台。 「すごいですね。シアタールームどころの規模じゃない」  群司が感歎まじりに呟くと、天城瑠唯はそうねと同意した。 「映画館に行けない。ミュージカルやコンサートを見ることもできない。そういう娘のために、特別に用意された場所だから」  座席数に比して、招かれている客の数は遙かに少ないため、皆、思い思いの場所に座っている。 「今日のパーティーは、このために開いたようなものだから、あなたも存分に楽しんでね」  適当に座るよう群司に言い置いて、天城瑠唯は舞台のほうに移動していく。そのまま、最前列の両サイドに設けられた非常口の左手の扉の向こうに、スタッフと思しき者たちと消えていった。  自由に席を選んでいいと言われたので、群司は左寄りの後列の席に座って会場内を見渡す。全体にまばらに席が埋まっているが、皆、舞台に近い場所を選んでいた。先程天城瑠唯を通じて挨拶をした者のほとんどが、その中に含まれていることに気づいた。  まもなく、天城瑠唯が言うところの特別な『ショウ』の幕が開く。  逃げ出したとされる『なにか』あるいは『だれか』は、すでに捕らえられたのだろうか。思うと同時に、やはり如月のことが気にかかる。まだ一度も姿を見ていないから余計だった。  如月の体調次第でイベントに参加させると天城瑠唯は言っていた。自分を誘う際にも使われた言葉だが、なんとなく『参加』というその言いまわしがひっかかった。これからなにが行われようとしているのか、具体的なことはまだなにもわからない。だが、如月も自分も、無関係でないことだけはたしかだろう。自分たちは、そのために呼ばれたのだ。  万一のときには、すぐに動けるように。静かな緊張を胸に、群司はあらためて己に言い聞かせた。 「皆様、大変お待たせをいたしました」  不意に会場内の照明が落とされ、舞台袖から登場した天城瑠唯にスポットライトが当たった。マイクを手にするその姿に、会場内から拍手が沸き起こった。

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