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第16章 第1話(7)

「貴様、ふざけるなっ!」 「おや、はじめて顔色が変わった。君でもそんなふうに感情を剥き出しにすることがあるんだね、いつも爽やかな優等生くん」  煽られていることはわかっていた。それでも言葉のひとつひとつに神経を逆なでされ、怒りを抑えることができなかった。 「本当はここまでするつもりはなかったんだよ。だが、君たちは少し優秀すぎた。ここまでされては私も引くことはできない。たかが国家の犬風情が、この私を欺いて大切な計画をだいなしにしようとしたんだからね」  天城嘉文は爛々と(かがや)く眼差しで群司を見据えた。 「人類を神の領域へと引き上げる、いまだかつてない壮大なプロジェクトに水を差そうとした。その罪は万死に値する。彼は身をもってフェリスの素晴らしさを体験し、己の犯そうとした罪の大きさを思い知らなければならない。なに、あれほどの美貌なら、男たちもすぐさま夢中になって彼を快楽の沼へと引きずりこんでくれるだろう」 「やめろっ! あの人になにかしたら絶対に(ゆる)さないからなっ! 地獄の底まで追いかけていっておまえを嬲り殺しにしてやるっ!!」  薔薇色のルージュが引かれたその口唇に、艶麗な微笑が刻まれた。 「素晴らしい。最高だよ八神くん。こんなにも情熱的な愛の告白をこれまで聞いたことがない。その想いに免じて、君も汚れなき乙女を神に捧げる儀式に参加してみるかい? だいぶご執心のようだから、早乙女くんの処女膜を破る役目を与えてやってもいい。君がはじめての相手なら、彼も悦んで足を開くんじゃないかな」 「ゲスがっ」 「なんとでも」  天城嘉文は勝ち誇った笑みを浮かべる。 「罵られついでにもうひとつ。今回のショウが終わったら、彼には本格的に女性化してもらって、私の子を産んでもらうことも検討しようと思う」  群司は愕然とした。 「いったい、なにを言って……っ」 「あれほど優秀で容姿もずば抜けて端麗となれば、生まれてくる子供は世界に君臨するに相応しい存在となるだろう。フェリスによって神格化された私の胤を注ぎこみ、次世代の神を創り出す。その気高くも崇高な作業に、彼にも協力してもらおうと思う」  完全に常軌を逸脱した内容に、心底慄然とした。 「ふざっ……、ふざけるなっ! そんなこと絶対させないからな! あの人をおまえの歪んだ欲望の道具になんて絶対させないっ。必ず阻止してやるっ!」 「そうかい? 嫌いじゃないよ、そういう青臭い正義感。早乙女くんが女としてどんなふうに花開いていくのか、そこで指を咥えてじっくり眺めているがいい」 「待てっ!」  両サイドにいる黒服の男たちに群司はふたたび押さえこまれる。天城嘉文は、高慢な笑みを残して管理室から去っていった。

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