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第17章 第2話(10)

「会社自体が大きいからね。IR部門だとか経理や総務にもそれぞれ。それから警視庁とも、協力関係を築くことになった。君のお兄さんのほかにも、潜入捜査に当たっていた捜査官が警視庁(むこう)にも複数いたから」  互いに身分を明かしたうえで、情報共有を行っていくことになったそうである。 「だけどそこに、如月くんは加わらなかった」  加えることができなかったというのが正しいんだけど、と立花は困ったように付け加えた。 「入社して二年。彼はあまりにも有能すぎて、たったそれだけの期間で会社の上層部から目をかけられる存在になってしまったからね。そのうえさらに、マージナル・プロジェクトのメンバーにも加わることまで決まって、僕らは迂闊に近づくことができなくなってしまった。会社側は目をかけているのが半分、目をつけているのが半分といった様子だったから余計かな」  兄の優悟のことがあったから、なおさらだったという。 「それじゃあ、俺が秋川優悟の血縁だという情報は、警視庁側からってことですか?」  立花はそうだと頷いた。 「うちの部署の田ノ浦さん。君も挨拶くらいはしたことあるよね」  群司は愕然とした。研究アシスタントとしてはじめて天城製薬を訪れた日、エレベーターホールまで群司を出迎えに来た人物だったからだ。 「え、あの人も警察官なんですか?」 「そう、僕の一年後に中途採用枠で入社したそうだよ」  どちらの組織も、群司が思っていた以上に早い段階からフェリスの情報を入手し、天城製薬に目をつけて策を講じていたというわけだ。 「僕が坂巻班の一員として君と接する機会が多かったぶん、田ノ浦さんは外野に徹することにしたみたいで、いつもそれとなく様子を窺ってた」  たしかに田ノ浦とは、最初のときを除いて数度挨拶を交わしたくらいの印象しかない。だが、兄のことで責任を感じ、ひそかに群司の様子を見守ってくれていたのだと知ってなんとも言えない気分になった。 「でも田ノ浦さんも、兄貴のことはあとになって知ったんですよね?」  まあ、そうなんだけどと、立花は群司の問いかけに歯切れ悪く応じた。 「ただ、おなじ組織に属す者同士、なんとなく感じるものはあったそうだよ。ほら、僕らって、そういうのには意外と鼻がきくから」  たしかに父も兄も、街中ですれ違っただけの見ず知らずの相手でも、同業者は雰囲気でわかるとよく言っていた。兄と田ノ浦も、営業部とバイオ医薬研究部でそれぞれに隠密の任務に就きながらも、それとなく互いを認識していたのかもしれない。

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